稲川淳二が小説で語る怪談話 「あれは数年前のこと、仮にAさんとしておきましょうか」

20年以上もブレずに怪談話をしゃべり続けてきた稲川淳二。その界隈では既に第一人者となっているお方。

稲川さんの怪談話の特徴は独特な擬音、彼の出身からくる小気味いい江戸弁、そして、いくつかある定番のフレーズ。

今回はこれらの「稲川節」とも言える特徴に着目していこうと思います。

稲川さんの怪談話の冒頭では、実際に体験した話なのか、それとも友人知人にから聞いた話なのか、はたまたメールや電話で相談を受けた話なのか、手短な枕を置くことが多い。

その後、少し間をおいて本題を語りはじめていく・・・この冒頭の「枕」に多いのが「仮にAさんとしておきましょうか」といったお決まりのフレーズだ。このフレーズを聞けば、「あぁ、稲川さんの怪談話ね」と思い浮ぶ。

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それはちょうど

第一話 演劇集団、東北の宿の回の冒頭はこんな風にしてはじまります。

それは、四~五年前の秋のはじめ、青森の小劇場での公演があって、その時の宿泊先というのが、町場から酢子はずれたところにある、古い木造の宿屋だったんですね。
出典:稲川淳二の怖い話 閉ざされたブラインド p5

それは、○○年前の、といったフレーズは稲川怪談にはお決まりです。「それは、今から数年前のこと」「あれは、ちょうどぼくが」「それは、もう初夏だというのにまだ肌寒い日のこと」。

稲川怪談の定番の口調が小説にもしっかりと押さえられていました。ただ、こうして活字として読んでみると、稲川さんの語りはじめには、定番のフレーズが多様されているのがバレてしまってます(笑)

次のセリフもよく耳にするところですよね。

仮にAさんとしておきましょうか

三十代に男性で、仮にAさんとしておきましょうか。それは、今から十数年前の、高校の夏休みに、友達のBくんとふたりで、長野県の北部にある湖に、自転車でキャンプに行った時の事です。
出典:稲川淳二の怖い話 閉ざされたブラインド p101

「仮に○○さんとしておきましょうか」というフレーズもよく聞きますよね。しかも、この怪談の場合、「今から十数年前の」という鉄板フレーズの合わせ技になっています。

本名では話せないわけですから「仮名」なのは分かりますが、それにしてもよく聞きます。

なんだかイヤだな~~

電話が鳴った

稲川淳二と言えば、超高速な舌使い。そんなイメージはないですか、ない、いやいや、この描写を読めばきっと納得してもらえるはずです。

これはそんなある日の朝、アダチさんが出かける時におこったんですがね。

トゥルルルルル、トゥルルルルル、トゥルルルルル

電話が鳴った
出典:稲川淳二の怖い話 閉ざされたブラインド p140

これ稲川さんは実際に舌を器用に使って表現していますからね、さすがです(笑)が、ここまでくるとやり過ぎ感があって笑けてきます。

ただですね、今回ちょっとこの擬音の使い方が間違っていないか、と思うような怪談があったんですよね。そこで、ちょっと一緒にみてみましょう。

ギイィィィドン・・・・・
ドアの開く音がして、フッとアダチさん目が開いた。目が開くとあたりは真っ暗。(うわあぁ・・・)と思って明かりをつけた。
そこは、いつものような、いつもの居間
出典:稲川淳二の怖い話 閉ざされたブラインド p140

古びた民宿なら分からなくもないですが、頻繁に開け閉めする居間のドアに「ギイィィィドン」という擬音は可笑しすぎます。どんだけ立て付けが悪いんだと思ってしまいますよね。しかも自宅ですから。

幽霊の前に、まずはお前の家のドアに油注したほうがいいんじゃないかとアドバイスしたいですね。

鉄板フレーズを駆使したらそれらしくなる

ここでふと思ったのが、稲川怪談の鉄板フレーズを駆使すれば、それらしい怪談話が作れるかもしれない。

というわけで、今まで取り上げた稲川淳二の鉄板フレーズを使った稲川風怪談を紹介したいと思います。

稲川淳二 学校

季節はちょうど半袖では肌寒さを感じはじめた9月下旬の頃。今から5年くらい前のこと。デザインの仕事仲間で、仮にAさんとしておきましょうか。

このAさん、実は元教師なんですよ。20代後半で学生の頃からの夢を明らめずに、転職した経歴の持ち主なんですよ。そんな彼なんですがねぇ、転職の理由がどうやらそれだけでなはかったらしいんです。

ある夜、私とそのAさんとで一杯飲むことになって、酒がまわってきて気持ちが緩んだのか、こ~んな話を私にしはじめたんですよ。

Aさんがまだ教師だった頃、その当時というと、まだ先生たちが当番制で学校に泊まって見回りをしていたんだそうなんですよ。

Aさんも月に数回の宿直当番がまわってきたんですが、当番になったある夜のこと。

校舎は3階建てでちょうと「コ」の字のような構造になっていて、西側と東側にそれぞれ棟があって、その2つの棟を渡り廊下が通ってる。

Aさんは見回りの時間になったので、ガラガラガラと宿直のドアをあけて、スタスタとまずは1階から見回りをはじめた。

1階がなんなく終わると、次は2階へ。ちょうど2階の渡り廊下にさしかかったあたりで、

ピタ、ピタ、ピタ、

と、どこからともなくミョ~な音が聞こえてきた。Aさんは「おっかし~な~、水飲み場から水でも漏れているのかな」と思って、2階にある水道の蛇口を重点的に調べながら点検を続けていった。

稲川淳二 廊下

2階の点検もあらかた終わり、3階へと行こうとしたとき、あの音がまだ止んでいないことに気づいた。
 
あれ、おかしいなぁ~ なんだかやだなぁ

と思いながらもAさんは排水管かどこかの水漏れに違いないと思いなおして、そのまま見回りを続けることにした。

一通り点検が終わり、1階にある宿直室に戻り、テレビを見ながら、なんとなしに時間を過ごしていた。

そしたら、また2階で聞こえてきた水漏れのような音がしてきたもんだから、Aさんは驚いた。

ペタ、ペタ、ペタ

Aさんは思った。もしかして、これって水漏れじゃなくて、なにかの足音じゃないのかと。そしたら急にゾワッと体に寒気を感じた。

心なしかテレビの音量もいつもより少し上げて、気をまぎらわす。見回りはあれで最後、あとはここで朝が来るのを待つだけだ。そう自分に言い聞かせながら気にしないようなんとか取りつくろう。

そのとき、突然

コンコンコン

とノックをする音がした。「えっ」とAさんは一瞬凍りつく。

だってそうでしょ。ここにはAさんしかいないんだから。校舎の見回りをしても誰もいなかった・・・はず。

Aさんは体が震えるのを抑えながら、ドアのところまで進んでいった。きっと空耳か何かに違いないと思い、ドアをそっと開けてみた・・・

ぎゃあああああああああ

Aさんはそこで意識を失ったそうですよ。

そのあとどうなっのかと聞いても、Aさんはそれ以上話してはくれませんでした。ただ、あの出来事が転職のきっかけになったのも事実ですよと、ポツリと呟いたのをかろうじて聞き取れたんですよね。

いったい彼に何があったのでしょうかねぇ~。

どうでしょうか、稲川さんをイメージできましたでしょうかね。

あと、最後に一つ言い忘れていました。「夢オチ」「気絶オチ」も稲川怪談では鉄板ですよね。

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