幽遊白書

幽遊白書 玄海と戸愚呂弟の悲しき関係

幽遊白書 冨樫義博

幽遊白書の中でも特別好きなキャラに戸愚呂弟がいる。

魔物に仲間を惨殺された過去を境に鬼と化し、暗黒武術会優勝をきに自らも人間を捨て、妖怪に転生することを望んだ。

結局、彼が願ったのはなんだったのだろうか。力のみに執着し、幽助とのバトルを心から待ち望んだ戸愚呂弟。

しかし、それだけが彼が戦う理由ではなかった。そこには形容しがたい悲しき闇が心の奥底にはあった。

正義と悪

冨樫の描く敵キャラには、完全悪とは言い切れない設定が挟まれていることが多く、これがストーリーに深みを与えている。

幽遊白書で言えば戸愚呂弟がそれだ。

幽遊白書
出典:幽遊白書(集英社文庫)4 冨樫義博

魔族に転生した戸愚呂弟は、闇のブローカーとして悪行の数々を日常とする生活を続けることになる。しかし、彼の過去を遡っていくと、そこには単純な「悪」とは言い切れない人物像が浮かび上がる。

幽遊白書
出典:幽遊白書(集英社文庫)6 冨樫義博

暗黒武術会決勝、死々若丸と玄海との戦いで、「正義」についての二人のやり取りがセリフが印象的だった。

正義とは何かを玄海に言わせているところに意義深いものがある。当然、これは戸愚呂弟を意識させるための冨樫先生の演出であることは言うまでもない。

幽遊白書
出典:幽遊白書(集英社文庫)6 冨樫義博

玄海のセリフがグッとくる。「あたしには正義なんてありゃしないよ」と。戸愚呂弟が犯してきた残虐非道の過ちは、その後自分なりに落とし前をつけるわけだが、完全なる悪とは言い切れなさを玄海を通して説明する。

ちなみに、戸愚呂兄はバッキバキの小悪党で、こういつはもう改心の余地のない鬼畜、一生蔵馬の幻影と戦ってろ。

幽遊白書 富樫義博
幽遊白書 戸愚呂兄、悲しきモブ的扱いながら味のあるキャラだった

戸愚呂兄弟は、苗字に「兄」「弟」を加えることで区別していたが、戸愚呂兄が弟に吹き飛ばされた後は「戸愚呂」は弟のみを指すように ...

↑味はあったけどね。

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こぶしとこぶし

戸愚呂弟から暗黒武術会の招待状が届いたとき、玄海は彼の意図はまだ完全には掴みとっていなかった。

ただ、玄海から霊光波動拳(れいこうはどうけん)を受け継いだ幽助との最後のタイマン勝負において、プーの体を借りて幽助に語りかけたシーンになると、その感情は明らかに変化していた。

幽遊白書
出典:幽遊白書(集英社文庫)8 冨樫義博

まるで、玄海が戸愚呂弟に味方するかのような過酷な提案。幽助が足を踏み入れようとしているのは、こういう世界なのだと厳しく諭す。玄海は戸愚呂弟の心のうちをこのとき既に見透かしていたのである。

幽遊白書
出典:幽遊白書(集英社文庫)8 冨樫義博

それに呼応するように戸愚呂弟も桑原に致命傷を与えるも命は取りとめる。桑原の生命力の高さか、それとも、戸愚呂弟の意図か、こうした含みを残すことでこのシーンが一気に深みが増す。

玄海と戸愚呂弟とがあの頃の関係に戻ったかのような関係にグッとくるも、決して分かり合えない二人の関係に読者はなにを思うだろうか。

なら、玄海の心に変化の兆しが見えたのはいつか。恐らく50年ぶりに戸愚呂と直接対話し、かつての友が道を踏み外し敵として、本気で命を奪いにきたあのときだったのはず。

戸愚呂は幽助同様の戦いバカ。拳でしか分かち合えない相手なのは、玄海は重々承知したいた。この命のやり取りで戸愚呂弟の心の内を悟ったのではないか。

せおうもの

極限以上な力を出したことで、体が耐え切れず倒れてしまう戸愚呂弟。しかし、その顔はどこか清々しさがあったのが印象的だった。

小閻魔の調査で明らかになったのは、彼を鬼へと駆り立てたのは愛弟子を守れなかったことへの償いだった。すべてのはじまりはここからだったわけだ。

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出典:幽遊白書(集英社文庫)8 冨樫義博

小閻魔のこのセリフがすべてを物語っている。戸愚呂弟は自分を偽ってでも強さを求めていった理由には矛盾があるが、この矛盾によって人間味あるキャラとして描かれている。

もちろん、戸愚呂弟の行動には矛盾もある。が、小閻魔のセリフで押さえられているため、個人的には設定の後づけ感や違和感はなかった。

こうした小ワザを聞かせているところも、冨樫作品の好きな部分だったりする。絶妙なリアリティを突いてくる。

旧友

霊界で再開した戸愚呂弟と玄海。しかし、暗黒武術会のときとは違い2人の関係は、妖怪に転生する前のそれに戻っていた。

幽遊白書
出典:幽遊白書(集英社文庫)8 冨樫義博

このとき玄海が若返った姿で戸愚呂弟と再会する。彼女の心の内を想像するだけで涙なくしては読めない。いろんな思いが交錯する場面だ、うーん。

戸愚呂弟は自ら冥獄界(みょうごくかい)へ行くことを決意し、幽助の今後の心配を玄海に告げる・・・・。

そして、このあと玄海のほうへ振り向く戸愚呂弟。あの表情は一生忘れられない。言葉では語ることのできない漫画だからこその表現力、感無量。

おわり

幽遊白書 冨樫義博
出版社: 集英社
販売: 株式会社集英社
言語: 日本語

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