日本人にとって馴染みのある時代劇といえば「水戸黄門」ではないでしょうか。水戸御老公一行が身分を隠し悪者を懲らしめるという勧善懲悪なお話。
日本人の国民性か、人知れず善をおこなうことが美徳され、人気なのは昔も今もそう変わらないような気がします。遠山の金さんしかり、大岡越前しかり。
そば屋幻庵もそんな王道時代劇といってもいい。江戸に評判の高い一軒のそば屋台の主であるが、実はその親爺が身分の高い元役人なのである。
夜な夜な通いにくるお客の愚痴や悩みを聞きながら江戸の町を守っていく。そして、これまた時代劇定番のお色気シーンもあるのだから期待せずにはいられない。
身分を隠して江戸を見守るそば屋の親爺
牧野玄太郎(まきの げんたろう)。一千二百石の旗本であるこの御仁の役職は幕府の財政管理を一手に担っていた「勘定奉行勝手方(かんじょうぶぎょうかってがた)」において勘定組頭(かんじょうくみがしら)まで登りつめたデキる男。
寛政のこの時代、役職を離れるにはまだまだ若すぎる50代にして、隠居を決め込み、現在は優雅な生活を送り、家督(かとく)も息子の栄次郎(えいじろう)に渡してしまった。

出典:そば屋 幻庵[kindle] かどたひろし 梶研吾 p11
しかし玄太郎には家族にも隠していることがあった、それがそば屋台の主の一面である。
旗本という身分であることから、秘密にせざるおえないのだが、江戸の夜は、なにかと面倒な事件が起こってしまうようである。
玄太郎のおせっかいな性分からか、そば屋の主(あるじ)として、そば一杯で事件を解決していくのである。これも役人として、今まで幕府を支えてきた正義感のせいか。

出典:そば屋 幻庵 [kindle] かどたひろし 梶研吾 p25
食漫画といえば食べっぷり!さてさてこの作品は
食漫画の醍醐味の一つに食べた後のリアクションがありますが、この作品にももちろんある。
幻庵のお客のリアクション、こと悩みを無事解決した後に食べる一杯のそば。この一杯を食べる表情が、毎回なんともいえない気持ちにさせる。
もちろん、最後はお約束の万事泰平で終わるのも、スカッとして気持ちがいい。

出典:そば屋 幻庵 [kindle] かどたひろし 梶研吾 p26
こんなシーンもこの作品の面白さの一つ。なんだか、そばがむしょうに食べたくなってくる。
そば作りをこんなにもエロく表現するとは、参った!!

出典:そば屋 幻庵 [kindle] かどたひろし 梶研吾 p74
そば作りは奥が深い。単純にそば粉を水を混ぜて捏ね合わせるだけではない。
水回し(みずまわし)、捏ね(こね)、延ばし、切り、そばを作る上でのこうした一つ一つの行程には、いずれにおいても妥協する余地はない。

出典:そば屋 幻庵 [kindle] かどたひろし 梶研吾 p75
たとえば、そば粉のタネを捏ねる行程。これなどは、まさに女性の乳首を触るように一心不乱に没頭しなければコシが出るはずがない。

出典:そば屋 幻庵 [kindle] かどたひろし 梶研吾 p77
最後の工程になって気を抜くことはもちろんできない。ここで気を抜いてしまうと、すべてが台無しになってしまう。フィニッシュにこそ男の真価が問われるのだ。
決して男の一人相撲ではいけない。どんなに体力が消耗していても、精気がなくなりかけても、最後の最後まで気を引き締めなければならないのである。
これこそ「そばとエロチシズムとの融合」とでもいおうか、なかなかイキな表現である。

出典:そば屋幻庵 [kindle] かどたひろし 梶研吾 p78
ふーーーーっ
なるほど!そば作りとは、まさに男女の営みと同じ行程だったんだと、この漫画で気づかされた(笑)
時代劇と食が合わさったスカッとする漫画。