2012年にシャンプ改で連載されたいた『予告犯』。作者は筒井哲也さん。単行本全3巻にわたるストーリーの組み立てが秀逸で、読み応えは十分。
ドラマ化や映画化もされている人気作。ただ、この作品問わず時事ネタを描くとどうしても作品の古さが目立ってしまうのが否めない。そこが残念といえば残念。
予告犯
この漫画は、警察が犯人を追いつめていく謎解きがメインではない。実際、1巻の序盤で犯人の素性や過去が描かれる。ただ、肝心な「なぜ犯人は犯行を決意したのか」という動機は最後の最後まで伏せられている。
犯人の真の動機はなんなのか?というのがこの漫画の読みどころ。犯行の前にネット配信で犯行予告をするのが彼の特徴。タイトルの『予告犯』もここからきている。
新聞紙を顔を隠していることから新聞紙男と呼ばれるようになり、過激な動画はSNSに拡散され認知度を上げていく。

出典:予告犯1 筒井哲也
しかし犯人はかなりの計画犯といっていい。たとえば↑のネット配信している場面。新聞紙で顔を隠すだけでなく、タイムスタンプの意味も含まれている。
さらには後ろにあるポスター、これは某漫画喫茶のロゴマークなのだが、犯人が今回の犯行に及ぶに至ったメッセージが隠されている。すべてにおいて意味があり、それらの含みがラストで一つにつながっていく。
犯人の境遇
奥田宏明は元IT企業で働いていた派遣社員。あともう少しで正社員になれるというときに社長の不当な仕打ちにあい退社に追い込まれてしまう。その後、再就職はぜず日雇い社員としてその日暮らしな生活を送っていた。
派遣問題やワーキングプアといった社会問題に触れ、さらには当時世間を賑わせていた人物もワンマン社長として登場。明らかにホリ○モン、特徴とらえてますww

出典:予告犯1 筒井哲也
この奥田が今回の事件の犯人。ただ、社会に対しての恨みだとか、正当な評価が得られないといった不満といった単純な犯行動機ではない。ラスト、使命を持った人間の行動力の偉大さを目の当たりにする。こういうオチはそうそうない。
サイバー犯罪対策課吉野
奥田を追うのは警視庁サイバー犯罪対策課の美人警部補・吉野絵里香。ネット犯罪を専門に取り締まる彼女がシンブンシ事件を捜査することになる。

出典:予告犯1 筒井哲也
はじめのプロファイリングでは世間の注目を浴びたいバカの1人と切り捨てていた吉野も、捜査をしていくうちに犯人の真の目的に気づきはじめていく。
世間を騒がせたニュースや人物が主な標的とする。度を超したパフォーマンスを披露するバカッターや衛生管理を怠った食品会社、面接風景をSNSで実況するバカ社員・・・こうした輩に鉄槌を下していくの新聞紙の表の顔。
ある意味ダークヒーローにも思える制裁という名の犯罪。法を無視した制裁という点では私刑と言ってもいいかもしれない。だが、これも犯人の用意周到な計画の一つ。警察同様、読者も犯人の目的に錯そうする。
ラスト
最後は犯人の自殺風景をネットで生放送することで完結する。ただし、ここも一筋縄とはいかない。

出典:予告犯3 筒井哲也
ネットに流れた動画に移っていたラクガキ。キルロイ・イズ・ヒア。これは第二次世界大戦の頃に米軍兵士の間で流行っていたロゴ。
このラクガキが最後の最後で重要な意味を持ってくる。彼の犯行計画は一体どこからはじまっていたのか・・・もう一度読み直したくなるラスト。
おわりに
新聞紙男の犯罪は当時メディアを賑わせていたニュースが元ネタになっているので、今読むとちょっと古さを感じるのが唯一残念なところ。
たとえば、シーシェパードが東日本大震災の際にの暴言問題や、尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件などが取り上げられている。

出典:予告犯2 筒井哲也
ただし、尖閣諸島の映像流出事件は犯人の動機と同調させることで、漫画にリアルな深みを与えている。こうした取り入れ方は面白い。
時事ネタが古いとは言ったが、今読んでも考えさせられるのは間違いない。3巻完結の『予告犯』、かなりおすすめである。