『彼女はろくろ首』は別冊少年マガジンで連載していた恋愛マンガ。全4巻完結で作者は二駅ずいさん。
主人公・鹿井(かのい)なつきのエロリアクションや、隣に住む鈍感すぎる幼なじみ宮間一樹(みやまいっき)とのイチャコラ描写とは裏腹に、暗い世界観を暗示させる背景描写。
一見するとラブコメ作品と思いきや、そこに漂っている世界観は不気味でどこか異質。不思議な読後感を残す作品だ。
ストーリー
主人公は鹿井(かのい)なつき、高校一年生。彼女はろくろ首。

出典:彼女はろくろ首1 二駅ずい
隣に住む幼なじみの一樹(いっき)に淡い恋心を抱いている女の子。でも、相手のことを分かりすぎているがゆえに、自分の想いを伝えることができないでいる。幼なじみのあるあるな設定。

出典:彼女はろくろ首1 二駅ずい
一樹も一樹で超がつくくらいの鈍感男。たとえば友達から一樹との関係を指摘されての、この「私好きです」リアクションw
こんな反応をされたら誰だって好きなのはバレる。でも、一樹には伝わらないし、なつきもなつきで告白できないでいる。そんな敏感女子と鈍感男子の恋愛模様が表向きのストーリー。
2人の微妙な描写
2人の友達以上、恋人未満な微妙な関係をセリフではなく絵で表現しているところが面白い。たとえばこのシーン。

出典:彼女はろくろ首1 二駅ずい
お隣同士の2人がベランダで偶然鉢合わせてたわいもない会話をする。部屋と部屋の仕切りを2人の距離感に重ねて描く演出に目を引きます。
絵で読者に伝えるのがこの作品の特徴。第10話「鈍すぎ」のこのコマでは2人の距離感をうまく表現している。

出典:彼女はろくろ首2 二駅ずい
道路を1つ挟んで2人が向き合う場面で、一樹が「顔こっち寄せて」といい、ろくろ首のなつきは首を伸ばして一樹に近づいていく。

出典:彼女はろくろ首2 二駅ずい
一樹の顔を間近で見たなつきは感情を抑えられる抱きしめようとする。しかし、体はそのままw抱きしめたくても抱きしめられない、感情が先走り自分の体がマンションに残ったままなのを忘れてる。
そして相も変わらず一樹の「どした?」という超鈍感なリアクション。2人の関係性がこのコマにすべて詰め込まれている。
ストーリーが進んでいくにつれて世界観が明らかになっていくんですが、こうした描写には人間と妖怪との間にある深いミゾも表現していたりして、読み返すとコマの意味がより深く味わえる。ちなみに作者がなぜヒロインを「ろくろ首」にしたのかも読み進めていけば自ずと納得できる。
散りばめられた伏線
なつきと一樹の近くて遠いラブコメのような雰囲気に引っ張られてしまいがちですが、実は1巻からしてこの作品の違和感はいたるところに散らばっている。

出典:彼女はろくろ首1 二駅ずい
第4話「暑すぎ」では家のカギを失くした一樹がなつきの家に泊めてほしいと夜遅く訪ねてくる。
一見するとドキドキ展開ですが、ここから一樹が高校生ながら1人暮らしをしているということが想像できる。
さらになつきの家にも弟はいるものの両親の姿は一切描かれていない。なつきの「朝までいるのかよ」というセリフがそれを物語る。なんなんでしょうねこの世界観?
なつきが通う学校のコマでは生徒はほとんど描かれていない。まるで廃墟のような簡素さが漂っていたりする。なんとも不気味な余韻を残す。
明かされる世界
ろくろ首は人間ではなく妖怪。二駅ずいが描く世界観は人間と妖怪が共に生活している世の中。そのためこの世界では、妖怪の存在もしっかりと認知されている。
だが人間と妖怪には相容れない関係が存在し、妖怪に対して偏見が根強くある世界でもある。3巻で明らかになったは人間と妖怪との大きなミゾでした。

出典:彼女はろくろ首3 二駅ずい
なつきの登校シーンなんかの背景に度々描かれていた大きな橋。名前はモドリ橋。この橋を起点に人間の住む地域と妖怪の住む地域が分かれていた。
まるで妖怪を隔離しているかのような世界観は、なつきと一樹のラブコメ作品とは一口にはくくれない。ストーリーが進むにしてがって明らかになっていく人間と妖怪との関係性も見どころの1つ。
感想
単行本4巻で完結してしまいましたが、個人的には好きな作品。ただ、ストーリーの面白さに比べてコマの構成がかなりいい加減だったのが残念。
とにかく大ゴマが多く、しかも同じコマを使い回しているためサクサク読み進めていけるんですが、手抜き感は否めない▼

出典:彼女はろくろ首2 二駅ずい
ちなみに月刊誌での連載です。
とはいえコマに隠させた伏線の意味を知ると、もう一度読み返したときに新たな発見がある。最終巻となる4巻ではなつきと一樹の関係が急展開する。明らかにやっつけだろ!てな話もありますし謎も残ったままですが、個人的には面白かった。