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秋元康の新聞小説「象の背中」がヒドすぎる件

象の背中 秋元康

作曲家・秋元康が2005年1月から6月まで産経新聞で連載していた新聞小説『象の背中』、2006年には書籍化され、その後映画、ドラマ、マンガ、絵本とクロスメディア戦略していく。

媒体それぞれによって作品内容は違うのですが、原作となる新聞小説がまぁ~ヒドイヒドイ。発表された当時も賛否両論が巻き起こり、とくに女性読者からの反応は冷ややかだった。

フィクションといえども(だからこそ)小説ってやつは作家の普段の価値観が(無意識でも)モロに作品に反映されるものです。

あらすじ

内容に入る前にまずはあらすじを確認していきます。これで読んだことがない人でもこの作品の価値が分かるはずです。

肺ガンで、余命半年という宣告を受けた48歳のサラリーマン、藤山幸弘。死を迎えるまでの半年を何に費やすか―。「自分の人生と関わった人に、“遺書”を残したい。遺書のスタイルは様々あっていい。死ぬことより、忘れられることのほうが怖い」と決意した藤山は、思いを伝えられなかった初恋の人や、若き日にケンカ別れした旧友をはじめ、過去の忘れがたい人々を訪ねてゆく
出典:「象の背中」商品の説明|Amazon.co.jp

余命宣告された幸弘が、友人・知人に会い遺言を残していく・・・一見すると涙ものの感動ストーリーかと思いきや、実はこの作品、ものすご~く身勝手なオッサンの話なんです。

アマゾンの評価を見ても分かりますが星1~2が目立ちます、ただその中には高評価をしている人もいて、これは読者が「男性」か「女性」かの違いによって読後感が違ってきます。

この作品は女性受けがすこぶる悪い、といいますか幸弘に共感しろというほうが無理な話。なんたって家族(とくに妻)をないがしろにしすぎてる。ほんとうもう潔いくらいに、決して家族愛は描いてない。

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妻よりも愛人

この物語に妻の存在感はない、愛人、愛人、愛人と、とにかく愛人とのエピソードがモリモリ。

余命宣告を妻には黙っていたのに、愛人には「君にならダメな自分を見せられる」という意味不明な理由ですぐに打ち明けて、挙句の果てに愛人二人で旅行に行く始末。

体調が悪化してようやく妻に打ち明けるのだが、家族と一緒に過ごすシーンはホスピスに療養するときまで一切ない。さらにはホスピスに愛人を呼び呼び寄せてしまう。

献身的に看病をしている妻を尻目に「俺の愛人だ」と余命を盾に紹介。妻は「そう」とだけ言って病室を出ていく。

「追い掛けなくていいの?」
悦子は、心配そうに聞いた。俺は、首を横に振りながら答えた。
そういう女なんだ
出典:象の背中 秋元康

この複雑なシーンで「そういう女なんだ」という、たったこれだけの説明で済ましてしまう作家秋元。この描写が象徴するようにこの作品では妻の存在が薄すぎるのだ。

しかも、女性がらみの問題は愛人だけで終わらない。次から次へと出るわ出るわで、もう後半は笑うしかないw

あなたを今でも愛しています

幸弘の女癖の悪さは昔からのようで、大学時代に一方的に別れてしまった女性と再開するやいなや、ホテルに直行して一発。奥さんをないがしろにするにもほどがある。

そしてなぜ幸弘を誘ったのかといえば「今でもあなたのことを愛している」からとのことw

さらには、若い頃会社の同僚の女性と一夜を共にし、子どもができてしまう。幸弘は「下ろしてほしい」と懇願し彼女も納得してくれたと思いきや、今になって「あなたの娘が結婚するから一目会ってください」と言うのである。

ここへきてのあなたの子ども宣告、幸弘には内緒で子供は下ろしてなかったのである。余命以上のダメージを喰らう幸弘。

しかも、なぜ彼女が会いに来たのかといえば、

まだ、あなたを愛していることに気づきました。
出典:象の背中 秋元康

んなアホな。

子どもを下ろせというバカ男を愛し続ける道理が分からない。あの時の一夜は若気の至りによるものではなかったのか。

幸弘はこの作品で2回身ごもった女性に「下ろしてくれ」と言っている。余命云々とまかりなりにも死をテーマに扱ってんだから、もっとデリケートに描けよと思った。

結論、薄っぺらい。

分骨と息子

この作品のテーマは何か、それは「愛人万歳!俺万歳!」である。

愛人からはじまる女性トラブルはまぁ、過去のことして忘れられるけど、これから将来においても愛人の存在が尾を引きつづけるという謎展開で終わる。

愛人は幸弘に「遺骨」が欲しいと懇願する。愛人への分骨。つまり、これからも私は幸弘を忘れずに一緒にいますと宣言しているようなもの。

もちろん妻はそんなこと許すはずもないのだが、幸弘の兄が「遺言」と受け取り、本家に分骨するという体裁で、妻には内緒で愛人に渡してしまう。

最後の最後まで妻の気持ちをないがしろにする阿呆。さらに驚くことに愛人のことを息子に頼む始末。

俊介が俺をまじまじと見ながら頷いた。俊介が悦子(愛人)を1人の女として意識し始めているのかもしれない。それもいい。息子だろうと、誰だろうと、悦子をしあわせにしてくれる男が現れればいいと思った。
出典:象の背中 秋元康

息子でもいいって、、、気持ちワル

まるで

最後に気になったのが「女とは」とか「女房とは」とか女性に対しての固定観念(悪い意味で)が多すぎるほどあったこと。

女はね、生涯で一番誰を愛していたか、そのことが大切なの
出典:象の背中 秋元康

女は、一生ばれない嘘をつくって言うからな
出典:象の背中 秋元康

女は、過去に遡(さかのぼ)って嫉妬するからな
出典:象の背中 秋元康

女はね、男の目が何を見てるか、本能的にわかるのよ
出典:象の背中 秋元康

どっかの歌詞のフレーズみたいだな。心地いい言葉を並べても、登場人物の心理描写が無茶苦茶すぎて薄っぺらい。

歌詞とは違うのだよ歌詞とは。ちなみに、この作品では美空ひばりの「川の流れのように」を人生にたとえて紹介しています。ここを読んだとき、さすがに爆笑してしまったwww

ラスト、俊介は家族に見守られながら病床に横たわり「思い残すことはなかった」と言い残し息をひきとる。そりゃそうだ、これで未練が残っているなら、まぎれもない阿呆だろ。

オススメはしない。

象の背中 秋元康
出版社: 扶桑社
出版日: 2006/3/31
言語: 日本語
ASIN: B008AECXB2

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