蛭子さんといえば、最近ではテレ東の旅番組で有名ですが、本業は漫画家さん。文化人でも芸能人でも、ましてやプロのギャンブラーでもない。
テレビに映る蛭子さんはいつも笑っている優しいおじいさんというイメージですが、漫画、特に初期作品を読むと、かなりシュールな作品を描いていたことはご存知でしょうか。
蛭子さんの初期作品をまとめた『蛭子能収コレクション』が出版されていますが、今回はこのシリーズから「パチンコ屋はインテリを嫌う」の紹介です。
ショートショートのような短編を集めたこの作品は、不条理さが前面に出ているのですが、なぜか引き込まれてしまうから不思議です。
競艇時代
とある競艇レースで一人の選手がコースから外れ、鉄製ポールに船体ごと突っこんで、死亡してしまうところからストーリーがはじまります。
たとえば、テレビの悲惨なニュースを観たとき、その瞬間は心を痛めるけど、その数分後には会社や学校の身支度に忙しくて、さっきまでの感情はすっかり忘れてしまう。

出典:パチンコ屋はインテリを嫌う 蛭子能収
なんだか不条理だけど、そんな不条理さは、毎日の生活を思い返してみるといくらでもある。自分と家族と、友人と、知り合いと・・・本気で心配するのはこのくらいの小さい範囲にすぎない。
映画や本を読んで一時にせよ感動するように、何か新しい情報が頭の中を占領してしまえば、いつしか心を痛めていたことさえ覚えていないもの。
競艇時代に登場する青年は俳優を目指して東京に上京するも、いつしかギャンブルに入りびたる生活へと落ちてしまいます。

出典:パチンコ屋はインテリを嫌う 蛭子能収
競艇でレースを張っていた青年だったはずが、いつしか選手としてレースに出ているシーンへと切り替わる。
彼にとっての夢とは、人生とはなんなのだろうか?独特な展開で進むストリートは、考えされられる作品になっています。
勝手にしやがれ
シュールの概念なんて抽象的すぎて言葉で説明しろといわれても、よくわからないけど感覚として多分みんな持っていると思います。
お笑いだったり、映画だったり、本だったり、「なんかこれ、かなりシュールだよね」と感じたり、思ったことはあるはずです。

出典:パチンコ屋はインテリを嫌う 蛭子能収5
パチンコ屋で人が刺され倒れている横で、パチンコを打ち続ける男。これだけでも十分シュールな展開です。
蛭子さんの作品はどう感想を述べればいいのか難しいですが、シュールな作品が多くて、若かりし頃の作品を知らないだけによけいに面白かった。
パチンコを打つこの男は、ギャンブルで家族を養っている。家には妻と二人の子どもがお腹を空かして待っているのだが、そんな家族の様子を隣の住人が観察しているという、なんとも奇妙な設定。

出典:パチンコ屋はインテリを嫌う 蛭子能収
なんだこのゾッとするような展開は・・・。けどこの作品を読めただけでも買った価値はあったな。
パチンコ屋はインテリを嫌う
一九八一年、パチンコはデジタルの時代に突入した これによりパチンコ屋は遊戯場ではなく 生活を賭けて闘う民衆のギャンブル場と化して言ったのであった
パチンコにコンピューターが導入されたことによって当たりが出なくなったとクレームをいうスーツ姿の男。周りの客は玉が出るのに、なぜ俺の台では当たりが全くこないのか。

出典:パチンコ屋はインテリを嫌う 蛭子能収
男は玉がでない理由を「自分がインテリだから」と考えるようになり、ついにはパチンコ台に八つ当たりをしはじめる。

出典:パチンコ屋はインテリを嫌う 蛭子能収7
パチンコ台を壊していく男だが、なんと台の裏に人(しかも裸の女)がいるというシュールな展開へと進んでいく・・・
蛭子能収のシュールな世界まとめ
一つ注意したいのは、作品のクオリティの高低がありすぎること。収録されている作品にムラがありすぎますね。
そこが残念ですが、まぁ、テレビそのまんまの蛭子さんらしさいといえばらしい。そこを考慮しても蛭子ワールドを味わう一冊として十分におすすめ。
ただ、一つ言えることはテレビで人気が出てしまったことで、漫画家としての才能を潰してしまった感は否めない。