マンガ感想論

チェンソーマン作者・藤本タツキ読切漫画「ルックバック」考察

ルックバック

少年ジャンプで連載されていたチェンソーマンの作者、藤本タツキ先生の読切漫画ルックバックが、ジャンプ+で公開されています。

中の人
期間限定なので注意!

読んでみて、メッセージ性の強い漫画でした。ネットで話題になるのも納得です。そこで、ルックバックの個人的な感想&考察を書いていきたい!

ルックバックのあらすじ

小学4年生の藤野は、自他共に認める漫画が上手な女の子。学級新聞で四コマ漫画を担当し、漫画家になるものまんざらでない様子。

そんなある日、担任の先生から、不登校の京本も四コマ漫画を描きたいと伝えられ、学級新聞に二人の四コマが掲載されることになる。

そこで、京本の画力の高さに驚く。自分より何倍も絵がうまい奴がいることに納得できない藤野は、絵の猛勉強を決意!時は流れ卒業式。

担任の先生に言われ、京本に卒業証書を届けることになった藤野は、はじめて京本と出会い、そして、意気投合する。

描くことが大好きという共通点から、共作で漫画を描くようになり、中学生で賞までとるほどの才能を開花させる二人。

だが、高校卒業後の進路で、これまで不登校だった京本が、大学へ行きたいと藤野に伝え、二人の人生は別れていく。

そして、運命のあの日。京本が通う大学に通り魔が現れ、不幸にも、京本が鉢合わせしてしてしまうのだが・・・・。

中の人
作品はジャンプ+にて無料で読めます(期間限定)
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背景にあるのは京アニ事件か

この作品がジャンプ+に投稿されたのは2021年7月19日、京アニ放火殺人事件(2019年7月18日)から2年を迎えた時期になります。

本作での、大学に不審な男が侵入するというストーリーからも、京アニ事件が背景にある作品、つまりは追悼の意が込められた作品と言えます。

中の人
この作品は、京アニ事件に対する藤本タツキ先生の追悼をあらわしている!

ルックバックというタイトル

この作品のタイトルにも、様々な意味がありそうです。そもそも、タイトル「ルックバック」を物の本で調べてみると、

  • 振り返ってみる
  • 回顧する
  • 追憶する

などの意味があるようです。

振り返るや追憶は、まさに京アニ事件の追悼を意味するタイトルです。また、この作品では主人公たちの背中の描写が印象でした。

主人公の背中描写
出典:ルックバック 藤本タツキ ジャンプ+

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backを背中と読むと、ルックバック(背中を見る)といった意味も含まれているのかも

藤野が机に向かって漫画を描いている場面はとくに印象的でした。漫画家は机の上で一日中絵を描く仕事。リアルな漫画家像とも言えます。

ちなみに、ストーリー序盤にて、小学生の藤野は漫画家について「ずっと座って絵描いてるのつまんない」と言ってますw

藤野のうれしさと雨の対比

藤野の喜び
出典:ルックバック 藤本タツキ ジャンプ+

一番印象的だったコマは、京本に漫画をめっちゃ褒められ踊りながら家路に帰るコマ。小説では、登場人物の心情描写を風景に重ねることがあります。

漫画も同じで、登場人物の心情を背景に重ねることはよくあります。京本に褒められうれしい藤野ですが、激しい雨が降ってるんですよね。

この場面は、漫画を描くのを諦めようとした藤野が再び奮起するターニングポイントですが、天気は雲に覆われ激しい雨が降り注いています。

これって漫画家として厳しさだけでなく、これからよくない予兆を示唆する場面でもあり、あの一コマでいろんな解釈ができるのが凄い。

中の人
藤野の嬉しさに潜む恐怖みたいな、笑いと恐怖が絶妙に混ざり合ってる場面があのコマ

もう一つの世界線をどう考える

ストーリー後半では、二つの世界線の中で物語は進んでいきます。京本が通り魔に襲われ命を落とした世界線と助かった世界線です。

二つの世界線
  • 京本が殺された世界線(メイン)
  • 京本が生き延びた世界線(サブ)

京本が生き延びた世界線では、藤野が通り魔をやっつけましたが、京本はこの出来事を四コマ漫画にします。

その四コマが、別の世界線(京本が死亡している世界)の藤野の手に渡るんですが、このときの四コマのタイトルが「背中を見て」でした。

背中を見て
出典:ルックバック 藤本タツキ ジャンプ+

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ルックバックやね

別の世界線から四コマ漫画を受け取った藤野は、漫画家として、これからも描きつづける決意を見せていました。

ラストまでの四つのコマでは、すべて藤野の後ろ姿(背中)が描かれるという、憎い演出でラストを迎えていたのも印象的でした。

藤野の一番のファンは京本。藤野が漫画を描き続けるきっけかになったのは、京本という熱狂的なファンがべた褒めしたからでしたよね。

藤野が漫画を描くのは読んでくれる人のため。このコマでは「つづきは12巻で」と、読者のために漫画を描き続けることも示唆しています。

この続きは12巻で
出典:ルックバック 藤本タツキ ジャンプ+

読者のために漫画を描く、ラスト四コマの一連の藤野の背中だけのコマは、読んでくれる人のために私は漫画を描くという強いメッセージを感じた。

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読んでくれる読者がいるから辛いことがあっても前に進んでいくという藤本先生の決意にも受け取れるラストでした

主人公二人はタツキ先生自身?

はじめは、藤野が藤本先生を投影していると思っていたんですが、藤野と京本の二人の主人公を合わせて投影しているかもしれません。

というのも、二人の主人公の苗字は藤野と京本。それぞれ、藤野先生の苗字が一文字ずつ使われているんですよね。

チェンソーマンの一コマ
出典:ルックバック 藤本タツキ ジャンプ+

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京本が描いているのはチェンソーマンに登場する開かずの玄関

さらに、藤野が連載したシャークキックの単行本表紙のタイトルロゴ、京本が描く絵は、チェンソーマンで描かれていたコマを題材にしています。

主人公それぞれが、これまでの藤本作品を描いています。京アニ事件に衝撃を受け、同じクリエイターとして、他人事には思えなかったのでしょうか。

中の人
藤野であり京本であると思い至ったのかな?

この作品が、京アニ事件を連想させる作品になっているように、作者の京アニ事件に対する想いがこの読み切り作に込められているのは確かです。

舞台は藤本先生の地元

東北芸術工科大学

ちなみに、この作品の舞台は秋田でしたが、藤本先生の地元になります。また、京本が通っていた大学は東北芸術工業大学がモデル。

これは、藤本先生が実際に通っていた大学です。先生が在籍していた科は美術科洋画コース。

藤本タツキ先生のメッセージ

京アニ事件の追悼作品なのは違いないですが、なら作者は、あの悲惨な事件をどう受け止めて、そしてどんなメッセージを伝えているのか。

私は気づかなかったんですが、最初のページと最後のページ、そしてタイトルをつなげることであるメッセージが浮かんでくるといいます。

ルックバック
出典:ルックバック 藤本タツキ ジャンプ+

1ページ(Don't)

ルックバック
出典:ルックバック 藤本タツキ ジャンプ+

ラストページ(in anger)

Don't look back in anger

オアシスの曲名としても知られるこのタイトルの意味ですが、怒りで過去を振り返るなとなります。

怒り=京アニ事件と変換すると、悲惨な事件であっても怒りに身を任せ立ち止まってはいけない、それは作品にもしっかり描かれていましたよね。

京本を失った藤野のように、作品を読んでくれる読者のためにも、前に進む強い意志が必要だと強烈すぎるメッセージを感じとりました。

【追記】作品の一部修正

ルックバックの内容に対して、集英社に抗議があったようで、その後作品の一部が変更させるという事態になったようです。

問題の場面の変更点についてですが、ツイッターで比較していた方がいました。この場面のセリフが修正されました。

メッセージ性の強い作品なので、過激な描写もアリだと思ったんですが、集英社の判断は変更を決断したようです。

ただ、京アニ事件に衝撃を受け生み出した作品なのは明らかで、変更されたコマは、事件を象徴するコマであり、メッセージ性の熱量が下がるのが残念。

中の人
通り魔のセリフは京アニ事件の犯人のセリフを明らかに意識したものでしたからね

賛否両論あるのは発表する前から分かってたはずだから、そこは集英社の落ち度だよね。作品の一部変更は個人的にはダメダメな対応に思う。

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