歴史・サブカル

徳川埋蔵金を探し続けた糸井重里というコピーライター

1990年6月、TBSで伝説の番組がスタートする。糸井重里を隊長とする徳川埋蔵金を発掘する一大スペクタクル番組である。

発掘調査の現場となったのが、群馬県渋川市赤城町周辺。

埋蔵金発掘プロジェクトのリーダーはもちろん糸井重里。彼の生まれが前橋市ということで、故郷の懐かしさもあってプロジェクトを引き受けることになる。

彼と番組スタッフを中心に前代未聞の発掘調査を足かけ4年にわたり繰り広げていく土と穴との格闘劇。

そんな90年代の懐かしい番組を振り返っていこうと思う。

赤城山に眠る徳川埋蔵金

TBS番組『ギミア・ぶれいく』からはじまった徳川埋蔵金発掘プロジェクトは、毎回20%以上の高視聴率を叩きだすほどの人気番組となり、のべ7回もの特番が組まれた。

当時、徳川埋蔵金が眠っている場所とし白羽の矢が立ったのが群馬県赤城山だ。

この場所に埋蔵金が隠されていると断定した経緯(いきさつ)を話す前に、徳川埋蔵金に取りつかれ、親子三代にわたり探し続ける水野家について話す必要がある。

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徳川埋蔵金と水野家

徳川埋蔵金を語る上で水野家はかかせない。

当初糸井重里を隊長とする徳川埋蔵金発掘プロジェクトはアメリカの有名な超能力者ジム・ワトソンキャロル・ペイトによって埋蔵金の隠し場所を探してもらう企画が持ち上がっていた。

しかし、超能力だけで埋蔵金を掘り当てるには無謀すぎることから、企画を練っていく中で、日本各地に眠る埋蔵金伝説について調べていくことになる。

そこで、行き着いたのが赤城山で三代にわたり徳川埋蔵金を探し続けている水野家であった。

水野家の歴史は徳川埋蔵金の歴史と言っても過言ではない。

事の発端は初代・水野智義が懇意にしていた幕府の勘定吟味方・中島蔵人が息をひき取る間際に聞いた「徳川埋蔵金発掘の遺言」からはじまる。

私は御公儀在職中、徳川家の再興を計るため同士の者たちと相謀(あいはか)って、甲府の御金蔵より黄金二十四万両をひそかに運びだし、上州赤城の山中に埋蔵した
出典:あるとしか言えない 糸井重里

1876年、明治2年。

水野智義はこれを機に徳川埋蔵金を掘り当てることを決意、三代に及ぶ壮大な発掘調査へと繋がっていく。

黄金の家康像

徳川埋蔵金が眠っているとされる場所はどこにあるのか。残念ながら詳細なありかを記している文献は存在しない。水野家でさえ、未だに確信できる場所には辿りついていなかった。

あるとしか言えない 糸井重里
出典:あるとしか言えない 糸井重里

今回のプロジェクトに協力したのは水野家三代目の水野智之であった。彼の協力や関連する資料を集める中で、今回の発掘の場所を下した決定的な物的証拠があった。

赤城山で発見された黄金の家康像である(残念ながらその後、謎の紛失にあい現在行方不明)。

あるとしか言えない 糸井重里
出典:あるとしか言えない 糸井重里

埋蔵金に関する文献や伝承は必ずしも真実とは限らない。伝言ゲームのごとく事実が歪曲し、情報が脚色されることもある。

糸井隊長はこうした雑多な情報の中で、物的証拠として発見された事実を信じることにしたのだ。

徳川埋蔵金発掘プロジェクトが動き出した瞬間である。しかし、その後この黄金像を巡り波乱が巻き起こることはこのとき知るよしもない。

井戸跡を探せ!

糸井隊長が最初にとりかかったのが、黄金の家康像が発見された場所の特定である。しかし、この場所は既に分かっていた。水野家初代・智義が目印を残していたからだ。

あるとしか言えない 糸井重里
出典:あるとしか言えない 糸井重里

当時、智義によってこの一帯の大規模な発掘調査がおこなわれていた。しかし、何も見つけ出すことができず埋め戻すことになる。

しかし、このとき目印となる杭を打ち込んでいたのだ。さらに、注目したいのが井戸(通称:源次郎の井戸)の存在である。

智義が書き残した日記によると、黄金の家康像が発見された近くに井戸があったことが分かっており、この場所にも目印の杭を打ち込んでいたのだ。調査すべき場所であると糸井隊長は判断した。

あるとしか言えない 糸井重里
出典:あるとしか言えない 糸井重里

調査の結果、黄金の家康像が発見された場所を中心に、その周辺の3地点を掘り進めていくことにした。

そして、第2回目の放送にして、ついに井戸跡らしき規則的に並ぶ石群の発見に至るのである。

あるとしか言えない 糸井重里
出典:あるとしか言えない 糸井重里

井戸だ!井戸跡だ!

手がかりを突き止めた糸井隊長ら一行。井戸跡の場所は目印の杭のおかげで分かってはいたものの、100年以上前の手がかりということもあり、確信が持てなかった。

しかし、この発見によって埋蔵金へと近づく確かな手ごたえを感じたのだ。そして、ここから歴史に残る一大土木番組のようを呈していくことになる。

巨大洞窟

井戸跡らしき痕跡を発見した前回から10ヶ月後の1991年9月、3回目の発掘特番が放送される。ここから新たにユンボが登場し、本格的な発掘調査がはじまる。

ユンボが大きく唸り、おのずと期待感が高まる。そして、ついに待ちにまった新たな物証が発見される。

何かあるぞ!

作業スタッフの声に駆けよる糸井隊長が目にしたものが「鉈(なた)」らしき物体だった。井戸跡から20メートルほどのとこで発見され、いやがうえにも期待が募る。

さらに掘り進めていったところ、ポッカりと洞穴らしき穴が出現したのだ。

あるとしか言えない 糸井重里
出典:あるとしか言えない 糸井重里

とにかく徹底的にあの空洞を調べろ

ゴールへと続く一筋の光が見えはじめた。

方針が決まったことで、作業が急速に進むと同時に、調査がさらに大規模になっていく。これぞロマン。徳川埋蔵金発掘へ向けて全員が一丸となって作業に取り組む。

あるとしか言えない 糸井重里
出典:あるとしか言えない 糸井重里

ここで、徳川埋蔵金発掘の経緯をおさらいしておこう。

黄金の家康像が発見されたとされる場所を中心に掘り下げていく。最初に発見されたのが井戸跡と思しき規則的な石群。その後巨大な空洞を発見する。

上の断面図からも、黄金の家康像発見場所を中心に発掘調査は進んでいったのが分かる。また、この図は簡略化されているが、実際には大空洞は迷路のように横穴が何本も発見された。

嘘(いつわり)

第3回の発掘調査にして、大空洞を発見した糸井隊長ら一行。しかし、興奮も束の間、これ以降の発掘調査から次第に雲行きが怪しくなっていく。

衝撃的な事実を知ったのは6回目の発掘調査でのこと。水野家初代・智義が書き残した資料を法政大学の村上教授に解析してもらっていたのだが、ここへきて調査結果が出たのである。

しかし、この報告書を見た糸井隊長は愕然とする。

あるとしか言えない 糸井重里
出典:あるとしか言えない 糸井重里

発掘場所を特定する際に根拠となった『黄金の家康像』がデマであることが明らかになったからだ。実際には純金製ではなく銅製、さらには発見された場所も、全く別の場所であったのだ。

行方不明になっているとはいえ『黄金の家康像』という物証があったからこそ、赤城山に埋蔵金があるにちがいないと思われてきたのだ。発掘チームがいちばん最初に赤城を目指したのも、そんなものが出た以上、何でもないってことはないだろうというのが発端だった。
出典:あるとしか言えない 糸井重里

三代にわたり徳川埋蔵金発掘に命を懸けてきた水野家初代・水野智義が詐欺にあい、ウソの情報を掴まされていたことが資料に書き記されていたのである。

浅はかすぎた・・・偽の情報を信じて今まで突き進んできたことになる。事前調査が甘かった、いや、甘すぎた。これに尽きる。

90年にはじまった徳川埋蔵金発掘プロジェクト、それから足かけ3年、何台ものユンボの轟音の中、巨大すぎる大穴を見つめる糸井隊長。

・・・・終わった

なんとも言えない徒労感に襲われたという。

もし初期の段階でこの書類を手にしていたら、即座に発掘なんかやめていただろう
出典:あるとしか言えない 糸井重里

糸井の心の叫びを聞いた。

だが、もう後戻りできない場所にまできていた

告白

埋蔵金発掘プロジェクトは第7回をもって終了する。

結果は・・・・

なにもなかった。

なぜなら、全く根拠のない場所をひたすら掘っていたからだ。だがそれでも、彼らはめげなかった。

それは第6回目の調査で黄金の家康像がデマであったという衝撃的な事実を知ってもなお、こうして第7回目が放送されたことからも分かる。

素晴らしい穴

この言葉はテレビ史上もっとも歴史的な糸井隊長のセリフだ。

彼らは穴という穴に名前を付けていたのだ。物的証拠がなくなった今、大洞窟にある「穴」だけが彼らのよりどころだった。

発掘にかけた巨額な製作費、参加してくれたメンバーたち、走馬灯のように駆け巡るが、はなっから見当違いの場所を掘っていたとはだれも言わない、いや、言えなかった。

放送最後の調査となる第7回目はやけくそだった。全長15メートルにも及ぶ探査機を導入したのである。

あるとしか言えない 糸井重里
出典:あるとしか言えない 糸井重里

引き返すに引き返せなかった

そんな言葉が聞こえてきそうだ。番組は毎回視聴率20%を超え、否応なくプレッシャーがかかってくる。

当初、番組のコンセプトは超能力で埋蔵金を掘り当てるだったはずが、最終回では最先端の科学が導入された。

この矛盾を当時指摘した知識人は果たしていたのだろうか、いや、言えるような状況ではなかった。

なぜなら

あるとしか言えない

からだ。

あるとしか言えない 糸井重里

彼の才能は計り知れない。

あるとしか言えない-赤城山徳川埋蔵金発掘と激闘の記録 - 糸井重里
新書: 259ページ
出版社: 集英社 (1993/02)
言語: 日本語
ISBN-10: 4087801748

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