漫画「小悪魔教師サイコ」は、三石メガネ原作の小説を基にした漫画作品で、合田蛍冬先生が作画を担当する人気作品です。
電子書籍サイト「ピッコマ」で人気となり、売上7億円を超えるヒットを記録します。しかし、2023年に突如として訴訟問題が発生。
ここでは、現在も再開できていない「小悪魔教師サイコ」の打ち切り騒動について解説します。気になる再開の可能性も探ります。
同一原作・同一タイトルの二つの漫画
電子書籍版「小悪魔教師サイコ」連載開始
小悪魔教師サイコは、三石メガネ先生の原作小説のコミカライズ版で、2021年4月にぶんか社から電子配信がスタートします。
作画を担当したのが合田蛍冬先生です。ストーリーはもちろんのこと、合田先生の魅力的な作画も相まって大ヒットを記録します。

ところが、この頃にぶんか社がウェブトゥーン事業への参入を発表したことで、次第に雲行きが怪しくなるのです。
ウェブトゥーンとは
ウェブトゥーン版「小悪魔教師サイコ」連載開始
2022年9月に、原作小説の管理会社taskey株式会社が、同じ原作小説を基に縦スクロール型のウェブトゥーン漫画の連載がはじまります。
すでに連載している電子書籍版と全く同じタイトルながら、作画担当者は高野ヒノ先生が担当する作品として連載スタート。
これにより、同一原作による二つの異なる漫画が同時期に存在するという、極めて稀な状況が発生することになります。
合田蛍冬先生の訴訟の経緯
小悪魔教師サイコのウェブトゥーン版の連載がはじまる前に、合田先生、ぶんか社、taskey株式会社の三社間で話し合いの場が設けられました。
ここで、合田先生自らが、ウェブトゥーン版が合田先生の作画の模倣になっていないかチェックすることで合意します。
その後、合田先生がチェックしたところ、「翻案権において問題がある」とし連載中止を申し出るも、ぶんか社らは強引に連載開始。

そのため、合田先生は自身の権利を守るために争うことを決意。2023年8月、ぶんか社を相手取り訴訟することになります。
訴訟の内容について
訴状によると、合田先生は3円という象徴的な金額の賠償を求めており、金銭的な補償ではなく、問題の本質を明らかにする裁判として話題なります。
問題の本質(訴訟の論点)とはなにか
合田先生が裁判で主張したかった問題の本質(訴訟の論点)とは「出版社の義務と責任」です。
- 出版社の義務と責任
- 契約上の問題
出版社は作画者との契約に基づき、同一原作による競合作品の出版を阻止する義務があり、適切な措置を講じるべきだったと主張。
さらに、既存の漫画家との契約関係を軽視し、原作者側の新たな漫画制作を黙認したことは、契約違反にあたるとも主張しています。
ぶんか社側の主張と反論
一方で、ぶんか社側は合田先生の主張を真っ向から争う姿勢を見せます。
- 法的義務と責任の否定
- 徹底抗戦の姿勢
原作者側が作品を止める権利も義務もなく、止めるかどうかの権利はすべて出版社が決めるという立場をとります。
ぶんか社側が徹底抗戦する姿勢をとったことで、この裁判は1年以上にわたり争われ、2024年9月13日付で和解が成立しました。
和解成立とその後の動向
ぶんか社側が謝罪を表明
2024年9月に、合田先生側とぶんか社側との間で和解が成立。和解の詳細な内容は明かされていませんが、ぶんか社側が合田先生及び読者に対して謝罪をおこなっています。
ぶんか社の公式サイトにて、2024年9月18日に「お詫びと休載のお知らせ」というタイトルで公式文書を発表します。
他社と合田先生の間で調整を進めてまいりましたが、結果として合田先生との調整を十分に図ることができず、本件漫画の読者の皆様にもご心配をおかけしてしまう事態となってしまったことにつきまして、読者の皆様及び合田先生に対しお詫び申し上げます
出典:ぶんか社公式サイト
ぶんか社の謝罪文を受けて、合田先生も自身の公式サイトで声明を発表しており、「一定の納得がいく結果となった」と説明しています。
9月13日付でぶんか社と和解をしました。守秘義務があり、和解の内容などについては詳しく触れることができませんが、訴訟を通じて問題提起をした事項について私としては一定の納得がいく結果となりました
出典:合田蛍冬のナラ日記
連載再開は「休載」のまま
ぶかん社側が謝罪したものの、小悪魔教師サイコの連載再開の目途はたっておらず、未だ休載状態にあるのが現状です。
本作品は「打ち切り」ではなく「休載」であることは、ぶんか社も明言しているものの、再開については不透明な状況が続いています。
小悪魔教師サイコ裁判時系列整理
小悪魔教師サイコ裁判にまつわる流れを一通り解説してきましたが、ここで時系列順にそって改めて整理していきます。
年月 | 出来事 |
2021年4月 | ぶんか社から「小悪魔教師サイコ」配信スタート。合田蛍冬先生が作画を担当し横スクロール型漫画として展開開始 |
2021年11月 | 後発漫画計画発覚。原作小説の管理会社taskey株式会社が、自社サイトにおいてウェブトゥーン型漫画展開を合田氏が知る |
2021年11月 | 2022年3月 | 交渉期間。taskey、合田氏、ぶんか社間で交渉開始。「後発漫画が合田氏の作画の模倣になっていないかをチェックする」という条件で合意 |
2022年4月 | taskey版のネームが提出され、合田氏らがチェック実施。翻案権レベルで問題があるとの判断下される |
2022年9月 | taskey株式会社が同一原作・同一タイトル「小悪魔教師サイコ」のウェブトゥーン版を高野ヒノ氏の作画で連載開始。合田氏の作画とは異なる縦スクロール型漫画として展開 |
2022年9月 | 2023年7月 | 同一原作による2つの異なる漫画が同時期に連載される異例の事態が約10ヶ月間継続。合田版は引き続き高い人気を維持 |
2023年6月 | 合田氏版「小悪魔教師サイコ」が7億円以上の売上達成。電子書籍サイト「ピッコマ」の年間人気ランキングで3位にランクイン |
2023年月 | 合田氏がぶんか社を相手取り提訴。賠償請求額は3円。出版社が同一原作による競合作品の出版を阻止する義務を怠ったとして訴える |
2023年8月 | 2024年9月 | 約1年間にわたる争うことに。当初ぶんか社は徹底抗戦の姿勢を示していたが、合田氏側が公開裁判を求めるなど注目度が高まる |
2024年7月 | 合田氏作画の「小悪魔教師サイコ」休載状態に入る。再開は未定。 |
2024年9月 | 合田氏とぶんか社の間で和解成立。ぶんか社が合田氏と読者に対し謝罪。和解内容の詳細は非公開 |
2024年9月以降 | 和解成立後も合田氏版の連載再開は未定のまま現在に至る |
この和解により、漫画業界における作家の権利保護について重要な先例が示されました。出版社の謝罪により道義的な責任が認められ田とも言えます。
また、原作者、作画家、出版社、それぞれの立場と権利が交錯する中で、明確なルールや保護制度が未だ不十分であることも露呈しました。
とりわけ、ウェブトゥーン版という新たな媒体が登場したことで、従来の出版モデルとは異なる課題を浮き彫りにさせました。
当時の読者の反応と困惑
読者はどちらを支持していたのか
同一原作・同一タイトルの作品が二つ登場したことで、連載を追いかけていた多くの読者が、戸惑いや混乱を感じていたようです。
SNSには、「なぜ同じタイトルの漫画が2つ存在するのか」「どちらが本物なのか」といった投稿も少なくなかったようです。
小悪魔教師サイコは合田蛍冬の作画じゃないと
表現も表情も幅広くて面白い一方で(貼らないけど)Webtoon版はエフェクトと人形トレスで誤魔化してる感じ
顔も動きも硬いから感情移入できない pic.twitter.com/O9VzqU10O5— 妙見💩 (@myoken11) August 30, 2023
また、合田氏の作画を支持する読者が多く、電子書籍サイト「ピッコマ」で人気ランキング3位、売上7億以上など記録を残しています。
作品の違いと打ち切りへの不安
原作小説が同じですから、当然ながらストーリーはどちらも同じになります。二作品の大きな違いは主に三つ挙げられます。
- ヨコ読みかタテ読みか
- 作画者が違う
- 完結か未完結か

ただ、タテ読み版の典型的なデジタル絵なので、のっぺりした感じてキャラクターの魅力が感じられないかもしれません。
また、合田氏が作画を担当する作品では、未だ未完結です。和解したのにおかしな話ですが、連載再開の目途は立っていない。
小悪魔教師サイコの今後について
和解は成立したものの、根本的な解決には至っていないのが現状のようです。実際、合田先生は裁判が終了した現在も、連載再開には至っていません。
さらに、2025年から「小悪魔教師サイコ」の関連漫画「小悪魔JKサイコ」の連載がスタートしましたが、作画担当は合田先生とは別の担当者。
合田版の「小悪魔教師サイコ」が完結を迎えない状況で、新たなシリーズの連載。和解したとはいえわだかまりがあるのは明らか。