単行本9巻で描かれた黄泉編。
黄泉にいるイザナミが持っているという「言の葉(ことのは)」を貰うために、恵比寿は会いにいったわけですが、もう一つ興味深かったのがイザナミとの関係性でした。
出典:ノラガミ(9) あだち とか
という恵比寿が言ったセリフ。作中でもイザナミとの関係性は描かれていましたが、なぜイザナミは恵比寿を捨てることになったのかをもう少し深くツッコんでいこうと思います。
二人の関係は日本最古の書物である古事記から読み解くことができますが、あくまで説の一つにすぎないということはお忘れなく。
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イザナミとヒルコ
出典:ノラガミ(9) あだち とか
古事記によれば、恵比寿はヒルコという名前で登場します。
ヒルコはイザナキとイザナミの最初の子どもとして記されていますが、イザナミ(女性)から求婚したことが原因で、不具の子どもが生まれることになります。
そして、二人はこれを「不吉」だとしてヒルコを葦(あし)の船に入れて、海に流してしまうんです。
「女人が先に言葉を揚げるのは不吉だ」。それでも寝所で結婚をして生んだ子は水蛭子(ひるこ)。この子は葦の船に入れて放流した。
出典:新版 古事記 中村啓信 角川ソフィア文庫
ヒルコの漢字を見ると「水蛭子」とありますが、「蛭子」は「えびす」とも読むことができます。恵比寿(えびす)がヒルコと同一人物とする説が今では主流となっているようです。
出典:ノラガミ(9) あだち とか
黄泉の国で再開した恵比寿が、イザナミに尋ねた一コマ。やはり気になっていたんですね。結局イザナミは覚えていなかったようですが・・・。
出典:ノラガミ(9) あだち とか
恵比寿は過去の書物から自分の母親が誰なのかを知ることになったわけですが、古事記を読んだ後だとさらにグッとくるシーン。
壮絶な離婚劇
出典:ノラガミ(9) あだち とか
古事記に記されているイザナミとイザナギの離婚騒動を知らない人にとっては、なんでイザナキが黄泉にいるのかと思っているかもしれませんが、これは夫であるイザナキが彼女を見放したことがそもそものはじまり。
日本を創ったといいますかお産みになったイザナミですが、国造りの最中にイザナミは死んでしまうのです。
伊耶那美(いざなみ)神は火の神を生んだことが原因で、遂にあの世へお行きになった。
出典:新版 古事記 中村啓信 角川ソフィア文庫
火の神を産んだことが原因で下半身に火傷を患ってしまい、これが致命傷となり死んでしまいます。
イザナギは神様ですから、あの世である黄泉へ行きイザナミを連れ戻すことも当然可能。そこで黄泉の国へと旅立つイザナギですが、一足助けるのが遅かったんです。
「とても残念なこと。もう少し早くお出くださったらよかったのに。私は黄泉の国のかまどで焚いた食事を食べてしまいました。」
出典:新版 古事記 中村啓信 角川ソフィア文庫
さて、このイザナミのセリフですが、ノラガミにも似たようなシーンがありましたよね。そうです、このシーンです。
出典:ノラガミ(9) あだち とか
黄泉で出された食べ物を口にすると帰れなくなってしまうのです。
しかし、イザナギはそれでも帰ろうとイザナミを説得して、一緒に地上に帰ればよかったんですが、残念ながらそうとはいきませんでした。
一足遅かったせいで、イザナミのかつての姿とはうってかわり、醜い姿へと変貌していたのです。
そしてイザナギがその姿を見るや否や、一目散に地上に逃げ帰えってしまいます。愛した男の一瞬の心変わりにイザナミもショックだったはずです。
では、イザナギが逃げ出すほどの姿とはいったいどんな姿だったのかと言えば、体中に蛆虫(うじむし)がたかり、八種類もの雷神がわき出しているという、ものすごい姿として古事記には書かれています。
出典:ノラガミ(9) あだち とか
ノラガミに描かれていたイザナミの体が腐りかけ、虫が這いずりまわっていましたが、これも古事記を参考に描かれているのが分かります。
そして、面白かったのは「恥ずかしい・・・」というイザナミのあのセリフ。作者はイザナギ(元旦那)のことを今でも引きずっている設定(作者独自の解釈)として描いていました。
なんとも物悲しい一コマです。