漫画「東京闇虫」は、2010年~13年までヤングアニマルで連載されていた作品で、読み方は「とうきょうやみむし」。作者は本田優貴さん。闇金、運び屋といった裏社会を描くグロめな作品。
ただ、そこにリアルさがあるかといえばやや微妙。たとえば「闇金ウシジマくん」と比較すると、リアルさやクオリティさはかなり低めと思っていい。
とくに、終盤は完全なエンタメストーリー。とはいえ、読み終えて分かったのは、本作は続編へと続く加藤覚醒までのストーリーという立ち位置。
強引さはあったものの、続編含めて東京闇虫なのだろう。少なくとも読ませる魅力は十分にあった。そんな東京闇虫のストーリーや魅力ポイントを紹介していきたい。
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東京闇虫のあらすじ・ストーリー
作者 | 本田優貴 |
出版社 | 白泉社 |
連載雑誌 | ヤングアニマル |
巻数 | 全7巻 |
代表作 | ただ離婚してないだけ、ハスリンボーイ |
借金まみれで首が回らなくなった加藤亮は、ある日、債権回収業者を名乗る二人組の男に拉致られてしまう。
車に無理やり押し込められ、たどりついた部屋にいたのは、浅村(あさむら)と名乗る長髪の男だった。不気味な笑顔を浮かべながら語りかける浅村。
ここが表と裏のボーダーラインだ
やるかやらないか。膨れに膨れ上がった借金285万返済のために、裏社会で金を稼げと悪魔の囁きが加藤を誘う。お前が生き延びる道はこれしかない。
究極の選択を迫られる加藤だが、借金を完済するまでの辛抱と、軽い気持ちで闇社会へと足を踏み入れることになる。
闇金、詐欺、ドラッグ、偽造、裏カジノ、あらゆる犯罪に手を染めていく加藤。借金を返して普通の人生をやり直すんだ。しかし、次第に加藤の気持ちは揺らいでいく。
中身の分からない品物を指定されば場所に持っていくだけで報酬10万円。いつしかお金の魔力に取りつかれ感覚はマヒ、罪悪感が薄れていく。
借金返済をきっかけに、裏社会に足を踏み入れた加藤は次第に闇の住人へと染まっていく。そして、彼が目指すのは・・・。
胸クソ描写をリアルに描く
当たり前だが、何の経験も学歴もない加藤が、たかだか数分の作業で10万、20万の報酬を一日で稼げるわけはない。犯罪に加担しているからこそ、報酬が高いのだ。
漫画「東京闇虫」では、加藤たちがどんな手口で金を稼ぐのか、そんな汚く胸クソ悪い部分までもこと細かに描いていく。
たとえば、老人を狙ったカード詐欺で荒稼ぎした手口では、老人を騙すために「電話部隊」と「実行部隊」の二つの部隊を使って巧妙に騙していく。
まず、電話部隊がターゲットとなる老人宅へ電話を架ける。そこで、「口座が不正利用された可能性がある。確認のため銀行協会の調査員が伺います」と連絡を入れる。
出典:東京闇虫3 本田優貴 白泉社
次に実行部隊が動く。加藤たちの役割だ。
アポを取りつけたニセ調査員が老人宅へと赴き、銀行協会員を名乗り新しいカードを作らせ、不正利用されたカードはこちらで回収しすると、自然な流れで奪い取る。
口座が不正利用された、カードが使えないという情報は当然ウソ、これによりまんまと騙すことに成功する。いわゆるオレオレ詐欺の一種。
実行部隊は被害者に完全に顔を見られており、すぐに足が付きそうだが、彼らもまた加藤と同じ境遇、警察にパクられても事情は一切知らない。さらにいくらでも補充がきく。
出典:東京闇虫3 本田優貴 白泉社
おじいちゃんの余生はもう・・・
もちろん、そこには被害者がいる、騙されていることも知らずに信用している被害者がいる。気づいた頃には全財産を奪われ、明日の生活にも困る真っ当な人たちがいる。
そんなところまでも想像させるストーリーは読んでいて正直キツい。苦虫を潰したような後味の悪さはあるが、こうしたリアルな描写を描くのが東京闇虫なのだ。
大金と犯罪と高揚感
被害者を横目に一人前に罪悪感を感じるも、お金の魔力には勝てなかった加藤。罪悪感はいつしか薄くなり、大金を稼ぐことしか頭になくなっていく。
借金苦とはいえ、今まで犯罪に手を染めてこなかった一般人の加藤が、大金を目の前にするや罪悪感はいとも簡単に剥がれ落ちてしまった。
出典:東京闇虫3 本田優貴 白泉社
これが人間の本性なのだろうか?
老人から騙しとった30万、大金を目にした加藤は、ゴクッと思わず唾を飲み込む。たった数分の作業で30万の大金、まるで天下を取ったような高揚感が全身を包んでいく。
そんなとき、仕事仲間であり、幼馴染でもある小田に誘われたのが、完全会員制のプレミアム・エグゼクティブ・クラブ、通称「変態クラブ」という名の裏カジノ。
出典:東京闇虫3 本田優貴 白泉社
毎夜行われているのは、女体を使ったギャンブルショー。誰が一番早くイケるのかを争う〇吹き杯、脱糞の量を争う脱糞杯など、魅力的な競技が待ち構えていたwww
裏社会のウマミをこれでもかも味わう加藤。老人からだまし取った金で豪遊、キャバクラ、ギャンブル三昧。
いつしか、人生チャラすぎと調子づき、世の中をなめはじめていく。だが、加藤は闇に潜む本当の恐ろしさをまだ知るよしもない。
頭のネジがぶっ飛んだ男、鯖田
これまで順調だった加藤、いつものように老人からだまし取ったカードでお金を引き出そうとしたとき、警備員に怪しまれ仲間の一人が取り押さえられてしまう。
出典:東京闇虫3 本田優貴 白泉社
銀行の外で待機していた加藤らは、その場からなんとか逃走することはできたが、これで済むはずもない。カード詐欺のバックには、元締めである暴力団がいる。
加藤たちのヘマにより収入源が減るのは避けられない。さらに足がつき、警察にマークされれば収入源自体がなくなってしまう。
問題は一体誰が責任を取るのかである(ゾワッ)。
アングラ、闇社会を描いた漫画には少なからずグロい描写は存在する。とくにケジメという名の拷問シーンは、声のみを描き実際のシーンは見せないことはよくある。
東京闇虫はどうかといえば、拷問シーンもしっかり描かれているのだが、問題はそのシーン。目を背きたくなるような過激でグロい描写が描かれる。
カード詐欺に加担し、短期間に大金を手にした加藤、幸せな人生を送れないのは自業自得、むしろ当然の報いともいえるが、それにしても、その代償はあまりにも惨い。
アイロン焼きに肋骨フルスイング
カード詐欺を仕切っていたのは、鯖目(サバタ)という暴力団員。だまし取った金は鯖目の元に集められ、取り分はそこから支払われていた。
金を納めにいっていたのは加藤の幼馴染の小田。この一件で小田が目を付けられ期日までに一千万を用意するよう命令させるのだ。
収入源の一つが潰された責任を取らされる。
出典:東京闇虫3 本田優貴 白泉社
とはいえそんな法外が金をすぐに用意できるわけもなく「払えない」と抵抗するが、そこに待ち受けていたのが鯖目の非道な拷問。
あまりにもむごすぎる描写のため、自主規制で掲載は控えたい。青年漫画ではあるがR指定はないもののコマのインパクトはトラウマになるほど。
たとえば高熱のアイロンをじかに肌にあてるシーンは「悍まし」の一言。高熱に悶える小田に、笑いながらアイロンを押し当てる鯖目の異常さ。
さらに仲間の加藤も呼ばれる。
待ち受けるのは地獄。悶え苦しむ小田を間近に、とうとう一千万という法外な大金をケジメとして払うことを約束してしまう。加藤と折半で五百万ずつ、計一千万。
しかし、拷問はこれだけでは終わらない。
鯖目は金属バットで小田の脇腹をフルスイングするよう加藤に命令するのである。拒否権は認められない。断ればこの場で殺されるという究極の二択。
加藤は目に涙を浮かべながら、焼きただれた皮膚めがけて渾身のフルスイングを決める。拷問は終了、鯖目から生きて帰ることができた。
裏社会の本当の恐ろしさ知った加藤。、一歩間違えれば死と隣り合わせの日常があることを思い知らされたが、もう真っ当な人生を歩めないところまで追い詰められていた。
東京闇虫は最終章へ
鯖目の拷問からしばらくして、小田と加藤は金策集めに奔走する。小田はカード詐欺でため込んでいた金をかき集めなんとか工面する。
一方、加藤は借金完済に充ててしまったため手元にほぼ残っていない。とはいえ、このままではアイロン焼きが待っている。
出典:東京闇虫4 本田優貴 白泉社
謎の女・・・蒼井さくら
自分の命がかかっているのだ!どんな醜態をさらしてでも五百万を集めるため金策に走る加藤は、ゲイ専門の出会い系サイトを利用する。
自分の身体を売ることで、少しでも金を稼ごうとしたのだ。だが、そこで知り合った蒼井さくらとの出会いによって、加藤の運命は変わっていく。
国男ハウス編
裏社会がテーマにおいてはストーリーはブレてない。だが、ここまでとは毛色が少し違ってくる。「東京闇虫」の最終章は国男ハウスが舞台となる。
さくらの手引きによって国男ハウスなる怪しげな施設に拉致らせた加藤。ちなみにだが、さくらと鯖目はまったく関係ない。
正直展開が急すぎるためストーリーについていけない感はあるものの、国男ハウスを運営する関口国男なる人物は裏社会では名の知れた人物であるのは間違いない。
一応、裏社会に影響力がある男の話という点で、ブレてはいないのだが、それにしても、五百万円を用意する話は置いてけぼりになったのは否めない。
鯖目がどうなったのかも分からないままストーリーが進んでいくこともあり、少しモヤモヤした感じで新章を読むことになるのは少し残念だった。
出典:東京闇虫5 本田優貴 白泉社
国男は地元警察とズブズブな関係、施設内でなにがおこなわれていても見て見ぬふり。つまり、警察をも黙らせることができるほどの有力者なのだ。
警察の介入がない、つまり、この施設はどこへもいくところがない人間が最後にやってくる場所、国男ハウスとはつまりそういうところなのだ。
表向きは派遣業者、しかし、その実態は人権を無視した国男ショー。安全の保障などない生きるか死ぬかのギリギリの戦い。国男の返事一つで生死が決まる、まさに国男独裁施設。
死んだ人間は、ハウス内で解体される。血抜きし、体をバラバラに切断してミキサーにかけ死体隠滅。シャバで生きられない人間の集まりのため、死体さえどうにかすれば警察に感ずかれることもない。
加藤は送られた施設とは、追いつめられた人間が最後に行き着く場所だったのだ。ちなみに東京闇虫の表紙に書かれている副題にはこう書かれている。
人生で最も選びたくないシナリオ
と。
加藤が最後にたどり着いた場所は国男ハウスという地獄の終着駅だったというオチとなる。副題から考察するに、連載当初から国男ハウス編も考えていたのだろうか。
東京闇虫のラストを考察
漫画「東京闇虫」のラストは、加藤が国男ハウスから脱出するストーリーへと展開。国男ハウスで相部屋だった川本光一と脱出の段取りを進めていく。
最終的に加藤と国男のタイマン勝負といった戦いになるのだが、加藤が裏世界で生きてことを決意するきっかけとして、この章が描かれている。
実を言えば「東京闇虫」は7巻で完結しない。続編となる「東京闇虫パンドラ」があり、この続編で今までの伏線が回収される構成になっている。
そして、国男ハウス編までが、加藤が一人前の半グレになるまでの序章であり、裏社会で名を上げていく物語は続編にて描かれていくようだ。
最終巻のラストのコマを見てほしい。
出典:東京闇虫7 本田優貴 白泉社
四つ巴の抗争
国男ハウスから無事生還した加藤は、なんの罪悪感もなく裏世界の住人としてどっぷりと犯罪に手を染めていく様子が描かれる。
そして、最終巻のラストにおいて、加藤が横断歩道を渡ろうとする場面で終わるのだが、このコマに描かれているメンツに注目したい。
かつての国男ハウスを運営していた関口国男、国男ハウスで相部屋だった川本、暴力団員の鯖目、そしてその中心にいるのが加藤亮。
加藤を取り巻く相関図のように、各キャラが配置されている、誰がどんな思惑で、怨みで、野望で、動くのか、そして、裏世界で生きていく危うさ。
鯖目の拷問を受けたあの日のように、加藤が生きている世界は一瞬先は死、そんなギリギリの世界で、腹をくくった加藤がのし上がっていこうとしていく様子がラストのあの一コマに凝縮されていた。
浅村というカリスマ
国男ハウス編から急にストーリーがブレたように思ったが、続編を見据えたストーリーとすれば、個人的にはアリ。
というのも、無印の「東京闇虫」では裏世界に罪悪感を拭い去れない加藤が終始描かれ、最終巻にてようやく腹をくくるという構成になっています。
なら、加藤がどのタイミングで腹をくくったのかといえば、加藤が憧れる人物、浅村との決別を自らの意志で決断したとき。
出典:東京闇虫7 本田優貴 白泉社
憧れの浅村さん
そもそも加藤と浅村の関係について触れておくと、浅村は加藤にとって裏社会に引き込んだ張本人。285万の債務回収を担当したのが浅村だった。
浅村の勧めから裏社会で金を稼ぎ、借金返済にあてていく。こうした関係性の中で、加藤は浅村のカリスマ性にほれ込み、憧れる存在へとなっていった。
浅村と加藤は決別したのか?
最終巻にて加藤は浅村と決別するこを決意します。しかし、一方で浅村は加藤との関係を断ち切ることはないはずです。
浅村は暴力団事務所に出入りしているが構成員ではない。つまり、立場としては半グレと言えます。しかし、浅村の裏社会での存在感はかなり大きい。
暴力団組長と対等に交わりビジネスを成功させたる手腕、人脈の幅も広い。そして、何よりも浅村には胸に秘めた野望を伏線として残しています。
裏社会でさらなる成功と大金を稼ぐために何かを仕掛けようとしているのは間違いない。そして、その工作の手玉として目を付けていたのが加藤亮。
出典:東京闇虫7 本田優貴 白泉社
本作では浅村の存在については詳しくは描かれていない。しかも最終巻では浅村も本名ではなく偽名であることが明かされ、さらに謎が多いキャラとして描かれていた。
続編となる「東京闇虫パンドラ」にて、浅村の野望が明らかになると思っている。そして、その側には加藤がいるはずだ。
東京闇虫ネタバレ感想まとめ
本作はやはり続編へと続く序章といった位置づけに思えます。ちなみに続編となる「東京闇虫パンドラ」もすでに完結済み。
そのため、国男ハウス編といった脱線とまではいかないものの、毛色が違う話になったときには「あれ?」と思ってしまった。
とはいえ、全体像というか作者の意図を考えると、加藤が裏社会で腹をくくるまでのストーリーとするならば納得の内容と言えます。
ストーリーは読みやすく、ハラハラやドキドキな展開で終始退屈もない。グロい要素が多いものの、抵抗がなければ問題ない。ストーリーの構成も深くまとまっている。
続編を意識したであろう終盤のストーリーにやや残念な部分があったのは致し方ないとしても、読み終わった感想としては良作な漫画、おすすめです。