漂流ネットカフェは漫画アクションで2008~11年まで連載されていた青年向け漫画。作者は押見修造さん。
作風はエロとグロ、漂流ネットカフェもまさしくエログロなストーリーですが、救えない結末にはなっていないので、比較的読みやすい作品。
ここではあらすじに触れつつ、各キャラの伏線や考察、結末を、アナブレなりの解釈でもって話していきます。あと、ネタバレ含みます。
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漂流ネットカフェのあらすじ
作 者 | 押見修造 |
出版社 | 双葉社 |
連載誌 | 漫画アクション |
巻 数 | 全7巻 |
代表作 | 惡の華、ぼくは麻里のなかほか |
化粧品メーカーに通う土岐耕一(どい・こういち)は、ささいなイザコザから妊娠中の奥さんと喧嘩し、家に帰りづらくなっていた。
たまたま目に留まったネットカフェで時間を潰すことにした土岐。そこで、中学時代に好きだった相手・遠野(とおの)と偶然にも再会。
昔の懐かしさから二人は意気投合、奥さんのことも忘れて「このまま夜が明けなければ」と思っている自分がいた。
そんなとき、突然ネットカフェに異変が起こる。ネットが使えなくなり、携帯電話も圏外、さらに突然の停電であたりは闇の中。
出典:漂流ネットカフェ1 押見修造
そして気づくと、土岐をはじめネットカフェにいた客たちは店ごと、東京ではないどこか別の世界に漂流していた。一面なにもない広大な草原。
不安と恐怖の中で次々に理性を失っていく人たち。そんな中で頭角を現したのが寺沢。彼によって暴力と性欲が支配する世界へと変貌。
寺沢に従うしかない中で、土岐と遠野は敵対、生き残るため、現実世界に戻るため、この欲望ダダもれの世界で生き残れ!
寺沢の暴走!エロと暴力の世界
まずエロと暴力の描写はかなりドギツイです。主人公の土岐と、中学時代に好きだった遠野がストーリーの主軸。
出典:漂流ネットカフェ2 押見修造
そして、土岐と対立するキャラとして登場するのが寺沢。寺沢についての考察はのちのち紹介するとして、コイツの狂気さが異常なのだ。
たとえば、女子大生のミクは、漂流そうそう寺沢に目を付けられ暴力によって性奴隷を強要される。
マジです。
出典:漂流ネットカフェ2 押見修造
このコマはまだましなほう。ストーリーが進むにつれて、寺沢の異常さ、暴力さはどんどん過激になっていく。
ミクをレ〇プし、恐怖で支配する寺沢。だが、寺沢は己の性欲を満たすために、ミクを支配しただけではなかった。
ミクを使って男たちのシモを握っていく。ようは寺沢公認でミクの体を弄ぶように仕向ける。下劣な表現だがまわすのだ。
エロと暴力を使ってネットカフェの客たちを引き込み服従させていく寺沢。だが、寺沢の行動はどこか幼稚に映る。
まるで中二病を大人になっても拗らせているオッサンのような。実を言うと、この異世界の存在がまさに思春期とモロに関係していたのである。
この世界の正体
出典:漂流ネットカフェ1 押見修造
漂流ネットカフェの一番の謎は、現実世界ではない別のどこかに突然やってきたこと。そこで、まずはこの謎から明らかにしていきたい。
この異世界は現実世界の別の場所というわけではない。つまり瞬間移動や時空の歪み的ななんらかの超常現象によって漂流したのではない。
主人公・土岐が作りだした夢、幻想の世界。ネットカフェにいた客たちは、土岐の幻想に巻き込まれてしまった、いわばとばっちり。
出典:漂流ネットカフェ6 押見修造
土岐が中学時代からモンモンとため込んできた想いが、遠野との再会で噴出、ネットカフェにいた客たちを巻き込み幻想世界に閉じ込めてしまった。
土岐は淡い初恋の思い出に固執し、今の今まで大人になりきれずにいた、いわば中二病をこじらせた状態で大人になったキャラだった。
幻想世界の伏線は序盤からあった
ちなみに、単行本1巻で土岐が中学時代に好きだった遠野と再会したとき、「このままずっと夜が明けなければ」と発言します。
土岐にとって一番楽しかった中学時代の淡い思い出が一気に噴出→ネットカフェの客たちを巻き込みながら、幻想世界へと漂流してしまった。
そもそも、あのネットカフェは有名なパワースポット。なんじゃその設定というツッコミは聞こえてきそうですが、一先ず横に置いといてほしい。
摩訶不思議な超常現象が起こっても不思議ではない場所がゆえに、土岐の妄想が具現化するという奇跡的な現象が起こった。
土岐と遠野の関係性
こうして整理していくと、土岐が作りだした妄想世界は中学時代の思い出というよりも、同級生だった遠野との思い出に執着していたことが分かります。
そして、あの日の夜、偶然ネットカフェで二人は出会った、、、と言いたいのですが、実を言うと、さらなる謎が隠されていたんです。
思えば遠野は意味深なキャラでした。
たとえばこのセリフ。妄想世界から帰るときは、私が死ぬときだからと、まるでこの世界の真実を知っているかのような口ぶりです。
出典:漂流ネットカフェ6 押見修造
土岐を現実世界に帰らせまいと引き止めていたのも怪しい行動でした。なら遠野の正体は何なのか、ネカフェで偶然出会った同級生ではないのか?
ネットカフェが漂流した世界は土岐が生み出した夢の世界、そこでは土岐の想いが現実として反映する世界です。
つまりは、、、
遠野もはなっから存在しない人物。最終巻では土岐の思念が具現化して、遠野を生み出すシーンも描かれていました。
土岐が作りだした妄想、漂流した世界でしか生きられない存在が遠野の正体。ネットカフェで出会ったときから妄想世界ははじまっていたんです。
遠野と未来の子供
出典:漂流ネットカフェ6 押見修造
パパ
遠野のほかにももう一人、遠野が生み出した人物がいます。それがストーリー終盤に登場した、土岐をパパと呼ぶ子供です。
土岐には妊娠中の奥さんがいますが、まだ産まれてはいません。となると、この子供も遠野と同様土岐が生み出した妄想人間と言えます。
ならこの子供はなにを意味していたのかと言えば、奥さんであり、お腹の中にいる赤ちゃんであり、仕事であり、、、
中二病をこじらせる土岐にとって、幻想世界は現実世界の煩わしさをすべて捨てて、一番楽しかった、そして未だ未練のあるあの頃に戻りたいという想いが作りだした世界です。
ただ、そんな土岐にとっても現実世界に未練があるわけではない。たとえば、単行本二巻で寺沢に携帯電話を壊されそうになるシーンがある。
携帯電話には奥さんとの思い出の写真がたくさん入っていたことから、壊させまいと必死になって抵抗していた土岐の姿がありました。
妄想世界に閉じこもりながらも、土岐はときたま奥さん(現実世界)を意識し、思い出していたのも事実です。
子供が急に出現したのも、土岐の無意識にある妻やこれから生まれてくる子供のことを考えて、現実世界に戻らなければならないことを意識しはじめたあらわれ。
出典:漂流ネットカフェ7 押見修造
ただ、土岐は現実逃避をして妄想に逃れたい想いが強かった。ネットカフェの部屋に閉じこもり出てこようとしない土岐。
そんな姿に客の一人が「出てこい」と強引に連れ出す。引きこもりの中学生を母親が「学校行きなさい」と無理やり手を引っ張る様子そのものw
この世界の正体が明らかになったとき、今だ中学の思いだにすがる土岐は、遠野との甘い思い出の中で生きていきたいと思うのであった。
寺沢の正体と過去
この漫画に登場していた気になる人物は遠野や子供だけでなく、ほかにもいました。
寺沢です。
エロと暴力で支配していった寺沢、土岐と敵対する関係性は、まさにもう一人の主人公ともいうべきほどの存在感を示していました。
登場人物紹介によれば、寺沢はネットカフェ難民となっています。つまり、ホームレスのような生活を送っていたようです。
最終巻のラストコマでは、ボロボロの寺沢が描かれていたのはそのため。
また、ネットカフェ難民だとすれば、土岐の幻想世界に漂流したネットカフェには何度となく利用していた可能性が高い。
ここで一つの可能性として、寺沢も土岐のような妄想世界を過去に体験した可能性があるのではないかと思ってしまう。
寺沢の中学時代の過去
なぜかといえば、寺沢曰く、自分と土岐は似た者同士と発言していた。似た者同士という意味は、中学時代の思い出をいまでも引きずり続けていたこと。
出典:漂流ネットカフェ6 押見修造
土岐と寺沢はそっくり!!?
寺沢の過去とは、中学時代、暴力で同級生たちを支配していたこと。漂流したネットカフェでおこなっていたことと同じである。
また、この頃「志穂」という女子生徒に性的暴力をふるったことで、警察に連行されていたことも明らかになっていた。
ただ、志穂は喜びながら受けれいていたと寺沢は勘違いしており、暴力をふるった相手が本気で喜んでいたと思っていたようだ。
このときの記憶が寺沢を縛り続けていた。中学エピソードは天と地ほどの差はあれど、寺沢もまた中二病か卒業できないキャラとして描かれていた。
土岐の妄想世界で、寺沢は遠野に最後まで手を出さなかったのも、中学時代のトラウマが関係していたと言えます。
その代わりに性欲のはけ口としてミクを利用した。本命には乱暴できないから、代わりのどうでもいい女で代用する。
寺沢のその発想は異常のなにものでもないが、彼にしてみれば、中学時代のトラウマから学んだことなのだろうな。
寺沢は妄想世界経験者?
寺沢と土岐は似た者同士、さらに、寺沢は超常現象が起こりやすいあのネカフェにいく度となく寝泊まりしていた可能性は高い。
ということは、寺沢も土岐と同じくあの店で幻想世界に漂流したことがある、なんて可能性もあるのかもしれない。
なぜかといえば、最終巻での寺沢の行動が明らかな違和感を感じたからです。その場面とは寺沢のこのセリフ。
出典:漂流ネットカフェ6 押見修造
オレを殺してくれ?
遠野が自分に見向きもせずに土岐を選んだことで、すぐに自殺を決意したのも、幻想世界から出る方法をはじめから知っていたのではとも考察できる。
もちろん、遠野に中学時代に性的暴力をはたらいた志穂と重ね、再び拒絶されたことで死を選んだとも考えらますが(こっちのほうが自然かな)。
とはいえ、寺沢が自殺を志願したとき、現実世界に戻れる方法はまだ明かされていなかった。ということはだ・・・
漂流ネットカフェの結末考察
中学時代からずっとくすぶっていた遠野とようやく決別できた土岐。壮大な思春期こじらせ病を治した土岐は現実世界へと戻ることができた。
漂流ネットカフェの結末では、妄想世界に漂流したネットカフェをもう一度訪れるシーンが描かれています。このとき、土岐は幻想ではなく本物の遠野とすれ違う場面が。
中学時代の青春時代に区切りをつけた土岐にとっては、自分の幻想とはいえ、ネットカフェで遠野に声をかけたあの夜とは違います。
第一話と最終話において「遠野と再会する」という同じシチュエーションの中で土岐の行動によって、彼が大人になったことを表現していました。
ラストの土岐の行動で、ようやく中学時代の淡い呪縛から解放され、大人になったな土岐の姿が描かれていました。
漂流ネットカフェ感想まとめ
現実世界と土岐の幻想世界はパラレルワールドらしく、幻想世界での記憶がまんま現実世界に戻ったとき引き継がれていました。
幻想世界であんだけヒドいことをされたのに、現実世界に戻ってきたときの「何もなかった感」は少し拍子抜けではありました。
平凡な毎日、奥さんの妊娠、これからパパになろうとしていた土岐、三十路前の区切りとして中学時代の思い出との決別。
嬉しさと不安との間で、大人になりきれない土岐の心と異世界とをつなげたアイディアはすごく面白かった。
単行本全7巻完結のエログロ漫画ですが、ストーリーは緻密で面白い。過激な描写や性描写に抵抗がないならおすすめしたい漫画。