恋は雨上がりのようには、2014年から18年までスピリッツなどで連載していた作品。ジャンルは青春恋愛漫画。
中年男性に恋をしちゃうJK(女子高生)という珍しい設定の漫画だけど、読んでみると青春の甘酸っぱいストーリーにドハマリ。
学生なら女子高生のあきら目線で、社会人ならJKに恋心を抱かれるファミレス店長目線でと、幅広い世代に受け入れられそうな漫画。
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恋は雨上がりのようにのストーリー
作 者 | 眉月じゅん |
出版社 | 小学館 |
連載誌 | 月刊!スピリッツほか |
巻 数 | 全10巻 |
作 品 | 九龍ジェネリックロマンスなど |
主人公の橘(たちばな)あきらは風見沢高校に通う17歳。放課後にはファミレス「ガーデン」でウエイトレスのアルバイトをしている女の子。
長身長に黒髪ロングヘアーの美少女だけど、釣り目で口数も少なめ、周囲からは睨んていると誤解されることもしばしば。
出典:恋は雨上がりのように1 眉月じゅん 小学館
そんなあきらがファミレスで働くきっかけとなったのが、もう一人の主人公、近藤正巳(まさみ)が原因だった。
近藤は、あきらが働くファミレスの店長、バツイチで独身、年齢は45歳と、典型的なさえないオジサンのそれ。
だけど、あきらにしてみれば、目が合っただけで胸が苦しくなるほどスキなのだ。青春真っ盛りの17歳の恋愛模様の行方とは。
あきらの悩み、そして、近藤の胸に秘めていたわだかまり、二人が出会い、そして恋心を抱きはじめたとき、止まっていた季節が動きはじめる。
恋は雨上がりのようにの見どころ
二人が会うときはきまって雨模様。それは、あきらの店長への片思いな気持ちを、どんよりとした雨雲に重ねていたんだと思っていたんです。
でも違ってた。
読んでいくうちに、心がどんより曇っていたのはあきらだけじゃなく、近藤もまたそうだったんです。
やまない雨は無い、なんて言葉があるように、二人の心にかかる雨雲がどうやって晴れていくのか、そこんところが見どころだったりする。
橘あきらの空模様
あきらの恋心は本気だけど、近藤からしたら、彼女のそれは青春からくる一種の凶暴さ。だからこそ一線を超えることはなかった。
出典:恋は雨上がりのように4 眉月じゅん 小学館
若さっていうのは・・・
このセリフからして、近藤にとってあきらは恋愛対象にはないのは明らかでした。女性というより、成長途中の子供のような扱いです。
近藤があきらと付き合わないストーリーになるのは実は序盤からして明らかでした。それは、職場に子供を連れてきたこと。
あきらの好きは純粋なものだけど、それゆえに、店長には別れた奥さんとの子供がいて、いろんなしがらみがあることを見ていない。
出典:恋は雨上がりのように1 眉月じゅん 小学館
17歳だから見えなくて当然、だけど、店長は当然大人だからそれが分かってるし、あきらの恋心にも答えることは決してなかった。
二人の恋模様が怪しいのなら、どういったストーリーになっていくのか。実はそれが、あきらの心にずーっと停滞している雨雲の原因でした。
バイトをする前は、陸上に青春のすべてを費やしていた女の子。でも、アキレス腱を痛めたことで陸上を諦めた過去があったんです。
走ることを奪われてしまったあきらにとって、怪我をしたあのときから、彼女の季節は止まってしまっていたんです。
恋の行方も気になるけど、もう一つ、あきらの陸上に対する想いはどうなっていくのか、そこも見どころの一つだったりする。
近藤のオジサン青春奮闘劇
もう一人の主人公、近藤正巳もまた、あきらとの出会いにより、忘れていた青春を思い出し奮闘する、そんなストーリになっています。
学生時代に書きはじめた小説、将来の夢は作家になること、それはファミレスの店長になった今でも心の隅に残っていました。
そんなときにあきらと出会った。そして、彼女の猛アタックにより、10代の眩しすぎる若い力に触発されていきました。
出典:恋は雨上がりのように9 眉月じゅん 小学館
近藤正巳、齢45歳にして本格的に小説を書きはじめることを決意する。彼もまたあきらとの出会いにより、心が晴れていったんです。
なんだか二人は似た者同士。すごく好きなことがあるんだけど挫折してしまった、けど、諦めきれない自分がいる。
あきらは陸上、近藤は小説。
そんな二人が偶然、雨の降る日に出会い、そしてあきらは恋に落ちた。近藤もそんな彼女を優しく受け入れた。
あきらの若さだけじゃない、近藤の、大人の輝きも描かれているからこそ深みがあり、幅広い世代にウケたんだと思う。
近藤とあきらの恋のゆくえ?
あきらの恋の猛アプローチは凄まじいの一言。まじまじと見つめながらの「好き」や、頬キス、こんなことされたら誰でも恋に落ちてしまう。
しかも、あきらはまちがいなく美人。いくら世間体があり大人な態度をとる近藤でも、いつまで正気でいられるか、いや、いられまいw
出典:恋は雨上がりのように10 眉月じゅん 小学館
帰せなくなる!!?
クライマックスとなる10巻では、あきらの純粋な恋心に触れてしまった近藤が、ついに一線を越えるセリフを吐いてしまいます。
え!?二人は恋人にならないんじゃ?いやいや、二人の恋愛はどうなっていくのか、ラストは各自読んでみてください。
恋は雨上がりのように最終回考察
漫画「恋は雨上がりのように」は10巻で完結を迎えるんですが、気になるのが二人は結局どうなかってところです。
ここからは既読向け。最終回の考察とあきらや近藤の気持ちを作中に根拠を求めながら、いろいろ考えていこうと思います。
最終巻での橘あきらの笑顔
10巻を手に取ってまず気づくのが、表紙のあきらの笑顔。これまで単行本において、彼女の笑顔が表紙を飾ったことはなかった。
ところが、最終回でのこの笑顔。この表紙が暗示するのは、あきらの心にかかっていた雨雲が晴れたってことです。
近藤との恋の結末か、それとも、彼女が諦めていた走ることへの答えか、すべては最終巻が教えてくれそうです。
マフラーと誕生日
最終巻では、年が明け、近藤の誕生日のために準備したお手製マフラーと、自分の気持ちをつづった手紙をプレゼントする場面。
出典:恋は雨上がりのように10 眉月じゅん 小学館
季節は冬。
外は雨ではなく雪が降り続いています。近藤の部屋で過ごす、二人だけの誕生日。積もった雪が音を吸収し、静寂が広がる世界。
あきらの想いは近藤に伝えた。
問題は近藤の答え。近藤はあきらを誘い近所の神社に初詣に向かいます。ここで自分の想い、そして、あきらとの恋の結末を口にする。
出典:恋は雨上がりのように10 眉月じゅん 小学館
最後まで一線を越えなかった近藤
近藤ははっきりと「君にできることはなにもない」と伝えます。大人だよ、かっこいいよ、漢だよ、けど、どこかさみしい場面です。
もし近藤があきらと同じ年代だったら、あきらに好きと告られたら、きっとなんの迷いもなく恋人になっていたはずです。
でも、青春を通過して大人になってしまった、今の近藤が「はい」と答えるには、あまりにも勇気が必要でした。
オジサンもキラキラしてる漫画
とはいえ、近藤があきらの恋心を断る理由を、年齢や諦めに求めるのは短絡的です。なぜって、この漫画はおじさんも捨てたもんじゃないからだ!
たとえばこの描写。
出典:恋は雨上がりのように9 眉月じゅん 小学館
近藤の同級生・九条ちひろと新人作家の町田すいとの会話。このとき町田はポール・ニザンの名言を自分になりアレンジします。
僕は17歳だった。それがひとの一生で一番美しい年齢だなどとだれにも言われまい
町田の「年齢なんて関係ない」は、彼が若いからこそ言えるセリフ、45歳の九条にしてみれば、甘いよ若人と思うのは当然。
ただ、町田は九条に対しても「美しい」と言い、美しさに年齢は関係ないことを言ってのけた。この漫画の重要なメッセージでした。
橘あきらは雨宿りをしていただけ?
あきらの心を覆う雨雲は、怪我で走れなくなった自分と、走りたい自分、走りたいけど怖い自分がせめぎ合い動けない状態を表していました。
出典:恋は雨上がりのように1 眉月じゅん 小学館
そんなとき近藤と偶然出会った。このとき、あきらの心にかかっていた雨雲から晴れ間がさした。それが恋のはじまり。
怪我で走れなくなったあきらは、代わりにバイトに励み、店長への想いを募らせていった。なら、店長への想いは本物だったのか?
うがった見方をすれば、陸上を挫折したあきらの陰鬱な気持ちをごまかすために、近藤に恋心を抱いていったのではないか。
ツバメの巣
そこで、二人の関係性を改めて整理したい。あきらと近藤の関係については、9巻でのツバメの巣のたとえが分かりやすい。
出典:恋は雨上がりのように9 眉月じゅん 小学館
ファミレスの軒下にあったツバメの巣、気づけば皆無事に巣立っていた。けど、1匹だけなかなか飛び立とうとしないツバメがいました。
あきらをそのツバメに、店長はそんな臆病なツバメのよりどころとなる巣として、二人の関係性を例えていました。
ラストであきらの背中を押したのも近藤でした。幼馴染の親友の言葉でも、同じ境遇の下級生でも、一歩を踏む勇気がでなかったあきら。
出典:恋は雨上がりのように9 眉月じゅん 小学館
でも、近藤の言葉によってあきらは走りたいという気持ちを言葉にした。本当に好きな人の前じゃなきゃこんなことはいえない。
一時あきらの魅力に落ちかけたけどもだw、近藤はツバメの巣として、あきらを温かく見守る存在として描かれていた。
あきらが渡したプレゼントの意味
近藤があきらのために用意していたプレゼントがありましたよね。ラストを理解するための重要なアイテムです。
近藤が用意していたのは日傘。まるであきらの心にかかっていた雨雲が晴れたことを暗示するかようなプレゼントです。
そして、近藤との誕生日会から帰ってきたあきらは母親にこんなセリフを言います。
出典:恋は雨上がりのように9 眉月じゅん 小学館
雨宿りしてただけ
そして「もう大丈夫」と。両想いにはなれなかったけど、その代わり走ることを取り戻したのは、間違いなく近藤おかげでした。
もう一度走ることを決心したあきらは、リハビリに励み陸上の世界に戻れたが、バイトを辞めたことで店長との接点はなくなってしまった。
ただ、近藤と過ごした時間はきっと忘れない。あきらにとって店長は恋心を寄せた人であると同時に、背中を押してくれた恩人でもあるから。
そういえば、誕生日プレゼントであきらから手紙をもらっていたけど、結局手紙の封を切ることはなかったみたい。
あきらがどうして近藤を好きになったのか、理解できたような気がしたな。
恋は雨上がりのように最終回まとめ
タイトルの「恋は雨上がりのように」、この雨っていつ時期なんだろうとふと思った、夏の雨なら、それは通り雨だったのかな。
若さは最強ってのは、ある意味真理だと思う、けど歳をとることが悪いことなわけがない。みんないつかはオジサンになるんだしね。
ただ、自分の知らないところで若者が影響を受けてることだってある。あきらは少なくとも近藤から影響を受けていた。
あきらが陸上に戻ったのは、店長の言葉はもちろんだけど、好きなことに打ち込む姿に感化されていたところもポイントです。
出典:恋は雨上がりのように9 眉月じゅん 小学館
さみしい!!?
近藤の楽しい姿になぜかあきらは寂しい気持ちを抱きます。好きなことを諦めている自分に、無意識に触れてしまったからです。
じゃなきゃ好きな人が楽しい姿を見て「寂しい」なんて感情はもたない、そして、そんなあきらの心を近藤はちゃんと見抜いていた。
かなりおすすめ。