漫画家ながら漫画が嫌い、ほとんどをアシスタントに描かせ、自分は最後に目を入れるだけといった噂がネットで見かけますが、実際はどうなのか?
漫画よりもゴルフを優先し、机に向かえばすぐに退屈して描きたくなくなる・・・という。
私は、新しく作品を立ち上げる時、プロデューサー的客観性を最も大事にしている。
出典:天然まんが家 本宮ひろ志 p5
漫画家というよりはプロデューサー的な立ち位置で作品に望んでいるようなのだ。
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漫画を描くのが大嫌い
画力うんぬんよりも、そもそも描くのが嫌いという稀有な漫画家・本宮ひろ志。もちろん矛盾は承知の上ですが、このまま読み進めていただきたい。
本宮先生がはじめて連載した雑誌は日の丸文庫、当時まだまだ駆け出しの新人漫画家とはいえ原稿で飯を食っていた。
その後、日の丸文庫が倒産したことで、食い扶持が吹っ飛んでしまった本宮青年は、有名な漫画家の臨時アシスタントとしてお金を稼ごうとする。
しかし、いかんせん絵が下手すぎた(笑)
もちろん、個人の意見ではなく先生自らが告白しているのだ。
背景の建物は描けない、車など描かかされようものなら、歪んだ車になる。ベタ(スミ)を塗らせればハミ出すし、シラミ(白い所が残る)だらけ。自分のマンガならば、下手であろうが文句は言われない。しかし、人の絵に合わせて技術的なことを言われたら完全にお手上げである。
出典:天然まんが家 本宮ひろ志 p36
『男一匹ガキ大将』を連載していたときのエピソードにこんな話がある。
ガキ大将が少年ジャンプで人気になってきた頃、本宮先生の下で働きたいという若者が身一つで突然仕事場まで尋ねてくることがあったという。
元カツオ漁師の久寿敬介と地元岡山で番長を張っていた小谷正樹の二人の若者。その度胸が見込まれたのか、本宮先生はアシスタントとして雇うことになるのだが、経験がほとんどないズブの素人。
さらに雇い主の先生本人までもが絵が下手ときているため、この連鎖はかなりボロボロだったというウソのような本当の話が載っている。
面白ろすぎる!
漫画力より分析力
今もなお第一線で活躍している現役漫画家が自身の漫画のヒットの秘密を分析(しかも鋭く)している本というのは、なんと贅沢なことか。
しかも、ここでは『男一匹ガキ大将』をはじめ『さわやか万太郎』『俺の空』『サラリーマン金太郎』の成功の秘密を先生自らが語っている。
たとえば楳図(うめず)かずお氏との対談エピソード。
あるとき、楳図かずお氏のラジオ番組に出演させてもらったことがあるが、私はそこで「マンガで人気を取ることなんか簡単ですよ」と言った。楳図氏は驚いたようだが、「主人公がケンカが強くて、明るくて、それに女の裸を書いて・・・そんなもんですよ」と続けたら、さらにびっくりしていた。というよりも、あきれていた。
出典:天然まんが家 本宮ひろ志 p212
また、今でこそ主人公がイケメンで女の子にモテモテといった設定は当たり前ですが、当時の青春漫画の主人公といえば、さえなくてモテないのが定番だった。
その常識を破ったのが本宮ひろ志という漫画家ではないか、自分の作品を振り返りながら分析していく。
『俺の空』は、ある意味で「コロンブスの卵」だった。かわいげのあるヒーローに女性の裸というエロを組み合わせるという二つのタブーを破ることはマンガ界では初めてのことだったろう。
出典:天然まんが家 本宮ひろ志 p202
自分の絵に執着しない
漫画を描くことが嫌いな漫画家。
そもそも漫画を描いていない本宮先生にとって、作風だの絵のタッチについて重要視していない様子。アシスタントに丸投げするくらいですから、自分の絵にそれほど執着していないのだ。
自分の絵が受け入れられないなら、ほかの奴に描かせるだけ。しかもそのことを包み隠さず話してしまう。まるで本宮先生が描く主人公達のようだ。
とにかく面倒くさがり屋の私は、設定を考えて登場人物を配置し、あとはアシスタントにまかせて描かせるというようなこともよくやる。マンガなんだから、眉間(みけん)にしわを寄せながらムキになって描くこともない。肝心なところだけ私がおさえていればいいのだ。
出典:天然まんが家 本宮ひろ志 p213
自分の得意な分野に向けたことで、ゴルフ・・・いやプロデュース的な立場で漫画を創作していくという独自のスタイルが生まれたのだろう。
しかし第三者、つまり奥さんから見た本宮ひろ志という漫画家像はちと違うのだ。
妻であり漫画家でもあるもりたじゅんさんが集英社新書から出版されている『同期生』には次のように本宮先生について書いている。
いまも登場人物たちのペン入れだけは、必ず本宮がやります。目のみならず、すべて彼がペンを入れます。
出典:同期生 一条ゆかり もりたじゅん 弓月光
おやおや??
全ては描かない、漫画は嫌い、こうしたウワサは確かに的を得ています、しかし妻、もりたじゅん先生の証言からキャラクターのペン入れだけは必ず描くというのです!
やはりネットの情報すべてを鵜呑みにするのは怖いですね。
ペン入れ、つまり、最後の仕上げはアシスタントにはやらせず必ず自分が行っていたんです!
いやいや「目しか描かない」と口走ったことを反省しながら、つらつらと読んでいくと、こんな告白が目に飛び込んできました。
この自伝のカットマンガを描いてくれている、娘のあゆみから(以下省略)
出典:天然まんが家 本宮ひろ志 p166
漫画家の自伝本に本人以外の絵を使うw
人にお願いすれば、ペン入れの必要はそもそもないわけだ。最後の仕上げは自分で仕上げることが分かりましたが、同時に「絵を描くのは嫌い」というのも本書からよーく分かりました。
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