2019年にアニメ化された手塚治虫(敬称略)原作の『どろろ』。アニメ化については、1969年に一度されているようです。
ほかにも、小説化、映画化、ゲーム化などいろいろなメディアで扱われていることから、手塚作品の中でも人気のある作品と言えます。
ただ、その原作といえば、当時のちびっ子たちには不評だったようで、打ち切りという形て終了。その後、再連載したもの人気は出ず終了。
とはいえ、今回読んでみるとこれが意外に面白い。
意外にと付けたのは、漫画はその時代その時代で面白さが違ってくるから。いくら手塚が天才といっても、今でも面白いとは必ずしも言えぬからです。
そして、手塚さんは「漫画は子供のもの」と言っておりますが(劇画ブームの影響もあってのことですがw)、漫画に込めらた強いメッセージは大人でも十分楽しめます。
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原作「どろろ」あらすじ・ストーリー
出典:どろろ1 手塚治虫 手塚プロダクション
ストーリーは、天下統一を願う醍醐景光(だいご・かげみつ)が我が子を生け贄に、四十八ぴきの魔神と契約をかわすところから始まります。
百鬼丸は、魔神の呪いにより目、耳、口など四十八か所を奪われて生まれます。景光はそんな我が子に「出世の邪魔だ」と言い放ち、池に捨てしまう。
捨てられた百鬼丸を拾ったのはとある医者。百鬼丸はこの医者に育てられ、義足や義手などを与えられます。しかし、成長するにつれ百鬼丸の周りには悪霊たちが近寄ってくる。
ある日、百鬼丸は自分の体を奪った四十八ぴきすべての魔神を倒せば、普通の人間に戻れると知り、魔神退治の旅に出るといったストーリー。
漫画「どろろ」の面白さとは
どろろは連載から50年以上経過している作品ですが、今読むと逆に新鮮だったり、今でもこの手法って多くの漫画家さんに使われているよね、みたいなものが随所にあります。
漫画の神様って言われるくらいだから、手塚さんがはじめにやりだした手法ではあるのだけど、それでも、へぇ~、やっぱすごいねと読んでてなる。
たとえば擬音語。
擬音語
出典:どろろ1 手塚治虫 手塚プロダクション
沈黙を表現した手塚
手塚が、最初に擬音語を取り入れたのは有名な話。このコマでは、静けさの表現として「シーン」という擬音語を使用、今でもよく見かけます。
つばぜり合いとか、衝撃音とか、音のあるものを擬音語にするのは分かるけど、沈黙という音のないものを擬音語で表現した発想はスゴイ。
特別出演
どろろは、妖怪退治の怖い漫画と思うかもしれないが、実はコマのところどころに、ユーモアたっぷりのコマが随所に描かれており、怖さとは違う読後感が少なから味わせる作品になっています。
たとえば、ギャートルズのキャラが特別出演で登場(鯖目の巻)していたり、水木しげる先生(法師の巻)について触れていたりと面白い。
極めつけはこのコマ。
出典:どろろ2 手塚治虫 手塚プロダクション
この場面は「無残帳の巻」での戦(いくさ)シーンなのだが、よくよく見れば誰も真剣に戦ってない、それどころか変なキャラがわんさかいるwww
黄金バットがいたり、火消し棒やナベぶた、作者自身の顔が描かれていたり、オバケのQ太郎がいたり、ともかくツッコめばきりがない。
当時のちびっ子たちは、こうした手塚の遊び心を見つけてはニタニタしていたんだろうなと、思ったりする。人気はボロクソに悪かったけど。
言葉の選び方
ほかにも舞台は戦国時代なのだが、各キャラがしゃべるセリフが現代版になっています。たとえば、オッケー、プレゼント、宇宙人、クラブなどなど。
時代背景とは明らかにおかしい言葉遣いに正直違和感はある。けど、これも漫画は子供のためのものという手塚イズム、子供に分かりやすく描かれているのが伝わってきます。
ちなみに今の少年漫画とは違い、えらく丁寧にストーリーを進めています。このコマにはどんな意味があるのか、この動きな何を意味しているのか、ある意味新鮮。
クスッ笑えるギャグ満載
ほかにも、漫画「どろろ」では手塚治虫のギャグのセンスがところどころに冴えわたっています。たとえば百鬼丸の「手塚」事件。
魔神を倒した百鬼丸は自分の腕を取り戻せたとき、今まで使っていた義手を弔うために、手の塚、つまり「手塚」を作ってます。
そして、一番面白かったのがこの場面。
出典:どろろ2 手塚治虫 手塚プロダクション
役人にどろろ一家が捕まり牢屋にぶち込まれる場面。このとき赤ちゃんどろろが牢屋の格子を潜り抜け、カギを手に入れたと両親がほめる場面。
赤ちゃんが格子を抜け出すなんてありえんだろと思わずツッコミ。これが作者の意図なんだろうけど、まんまとハマってしまった。
アニメでは終始シリアスな展開ですが、原作ではこうしたユーモアやギャグたところせましと登場してます。なのでけっこう気軽に読めてしまう。ホラーが苦手でもけっこう平気。
お前はどこが悪い
ユーモアやギャグばかりでなく泣けるエピソードもある。一番グッときたのが法師の巻。盲目の法師がはじめて登場する回。
法師の剣術に見惚れ弟子をお願いするのだが断られてしまう。諦めきれない百鬼丸は、法師の後をついていくのだが、途中絶壁に崖から落ちそうになり弱音を吐いてしまう。
おれはダメな人間だ。四十八も足りない部分があるうえ妖怪に狙われていると涙ながらに話す百鬼丸。そんな姿を見た法師はある場所へと連れいきます。
法師が連れていったのは、戦(いくさ)によって両親を失った子供たちが暮らす廃寺、子供たちの中は片腕や片足がない子もいる。
出典:どろろ1 手塚治虫 手塚プロダクション
法師は「こんな子どもたちが一生懸命生きとるやないか」と諭しどこかへ去っていく。このエピソードは「どろろ」の中でも一番といっていいほど好きな回。
思わずポロリと目から汗が出る感動エピソード。考えさせられるメッセージがいっぱい。ちなみに、このエピソードの結末は全くもって救えないのですが、詳しくは本編を読んでほしい。
どろろと刀
百鬼丸が旅の道中で出会ったのがどろろという子供。どろろは百鬼丸の刀欲しさに付いていくことになるのだが、作中においてどろろが刀を持つシーンが一切描かれていない。
どろろが戦うときは刀ではなく石。石を投げて戦うのである。しかも、近くに刀がある場面でも刀を持って戦うこともない。
たとえばこのシーン、
出典:どろろ4 手塚治虫 手塚プロダクション
どろろが敵にわざわざ刀を差しだしているのである。そして、相手が刀を持った瞬間石をぶつけて、剣を握らせないようにしている。
こうしたコマからしても、どろろは近くに剣があっても持たない、または、剣を持っても、それは武器ではなく相手に差し出すために握っています。
出典:どろろ4 手塚治虫 手塚プロダクション
刀を使いたいというドロロに対してイタチは「お前にはまだ早い」と刀を持たせてもらえないなんてシーンもありました。
イタチは性別の秘密を知っている人物ということもありますが、こんな風にどろろは刀を持って戦うといったシーンは一切描かれていません。
ちなみに、百鬼丸と喧嘩別れしてその選別に刀を上げているシーンがあるんですが、気づけばその刀はどこかへ消えてしまっています(白面不動の巻)。
意図的にどろろに刀で戦わせないようにしているのは間違いないはず。
どろろの両親は野盗ではありますが、元農民から武士にさんざん痛めつけられた過去があります。とどろは武士に対抗する農民の象徴として設定させていたようにも思えます。
どろろの結末
ラストで明からせるどろろの正体
出典:どろろ4 手塚治虫 手塚プロダクション
ラストで明かされるのはどろろの正体。今まで男の子だと思っていたどろろが、実は女の子であったことが判明します。
ドロロの仕草や言動から伏線は張られていました。たとえば、百鬼丸と水浴びシーン。このとき、どろろが胸を隠すしぐさかをしています。
この仕草は明らかに女の子キャラを意識してのこと。ワンチャン、男の娘という可能性もなくはないですが、その可能性は限りなく低い。
出典:どろろ4 手塚治虫 手塚プロダクション
どろろについてはその後どうなったかは描かれていませんが、百鬼丸には別れ際に「農民たちと一緒に戦い抜け」と言われ、自分が愛用していた刀を譲っています。
両親のように農民を守るために武士と戦って生き抜いていく道を選んだのか、それとも、泥棒として生きていったのかは明らかになっていません。
百鬼丸の最後はどうなる
どろろと共に魔神退治をしていた百鬼丸ですが、どろろは足手まといだといって一人で魔神退治に出ていきます。それから50年の長き月日を経て普通の人間に戻った。
というナレーターがラストに絵が描かれて終わります。冒頭でも話したように連載打ち切りということもあり、伏線すべては回収できはいません。
漫画「どろろ」感想まとめ
ここまで漫画「どろろ」について紹介してきましたが、原作は打ち切りに終わったこともあって結末については、かなりの急展開。
とはいえ、ストーリー自体はとても面白いし、コマに感じる手塚治虫の遊び心も探してみるなんて読み方もできるので、退屈せずに一気に読めるはず。
北と南で板ベイを立てる話はベルリンの壁を連想させたりと、当時の政治ネタを取り入れてみたり。一部でキワモノ漫画と言われていますが、そうでもなかった。