漫画「モンキーピーク」は週刊漫画ゴラクで連載していたサバイバルパニックホラー。原作は志名坂高次先生、作画は粂田晃宏先生が担当。
山に棲む魔猿との戦いを描きながら、自然の恐ろしさ、仲間割れ、精神崩壊と、人間のドス黒い部分がこれでもかと描かれます。
モンキーピークのストーリー・世界観
作 者 | 原作:志名坂高次 作画:粂田晃宏 |
出版社 | 日本文芸社 |
連載誌 | 週刊漫画ゴラク |
巻 数 | 全12巻 |
代表作 | 志名坂高次:凍牌、悪童など 粂田晃宏:不沈アタッカーなど |
早乙女稜(さおとめりょう)が勤務する藤谷製薬の社内レクレーションでは、社員全員参加の登山がおこなわれていた。目指すは、はしらび山。
険しい道もあったが、社員全員無事に登ることができた。その日の夜は、テントを張り一日を過ごし明日下山するというスケジュール。
登山の疲れから熟睡中の社員たちに深夜、事件が起こる。テントに近づく謎の巨大な影、その正体は鉈を持った巨大な大猿。
出典:モンキーピーク1 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
真夜中に響く悲鳴とともに、次々に殺されていく人間たち。大猿はどこかへと姿を消したが、生き残ったものは恐怖で眠れぬ夜を過ごす。
翌朝、パニック状態の社員たちは急いて下山を決意するが、猿の惨殺は止まらず一人、また一人と殺されていく。
大猿の強襲は、早乙女たちの精神をすり減らし、さらには食料・水不足に加え、過度なストレスと疲労から仲間同士の疑心暗鬼へと発展。
大猿の正体は、なぜ早乙女たちを狙うのか、山を舞台にした自然の恐ろしさと、生き残りをかけた戦いが今はじまる!
モンキーピークのみどころ
まずはモンキーピークの魅力やみどころをネタバレなしで紹介。どんな作品なのか、読もうか悩んでる人向けにまずはザックリ紹介。
六ッ倉連邦に棲みつく大猿
早乙女たちが遭遇したのは、ゆうに二メートルを超える二足歩歩行の巨大猿。どこから現れ、なぜ襲ってくるのか、その理由は不明。
性格は獰猛で凶暴、鉈を使うことからバケモノには間違いないが、道具を使用していることから、野生ではない可能性が高い。つまりは・・・
出典:モンキーピーク4 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
ストーリーが進むにつれて、複数体いることが明かされる。大猿は一匹だけではなかった!絶望しかない状況でどう戦うのかが見どころの一つだ。
自然の圧倒的暴力
絶望は大猿だけではない!十分な登山準備のない早乙女たちは、丸裸で山にほっぽり出されたようなもの。そこで味わうのは容赦ない自然の洗礼。
一歩間違えればあの世いきの状況で、生き延びなければならない現状。早乙女たちにとって自然もまた無慈悲な敵なのだ。
出典:モンキーピーク5 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
標高2500メートル、風速10メートル以上、体温はみるみるうちに奪われていく。標高と風速により体感温度は今や氷点下。
体温を温めなければ確実に凍死する危うい状況。季節は秋といったところだが、山での野ざらしは即座に「死」を意味するのだ。
出典:モンキーピーク7 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
山の雷も侮ってはいけない。周囲が岩山で高い物体がない場合、その場で身をかかめて、雷が落ちないことを祈るだけ。
山でなくとも、近年のゲリラ豪雨による激しい雷など、都市ですら危険を感じることがある。逃げ場のない山であれば恐怖は計り知れない。
サバイバル術を駆使した生き残り
自然の驚異に人間は無力、だが早乙女たちは決して諦めない。自然に抗い命をつなぎ生き抜く!そんな生存サバイバル術もまた面白い。
出典:モンキーピーク1 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
たとえば登山地図。登山地図には、登山ルートの横に所要時間の目安が記入されているが、同じ道でも所要時間は違ってくる。
平坦な登山道であれば登りも下りも同じ所要時間だが、下りの場合は、登りよりも下りのほうが所要時間は短くなる。
所要時間を確認することで、登りなのか、下りなのか、それとも平坦なのかが一目で分かるようになっているのだ。
この基準を下まわると脱水症状が出はじめる。めまいや吐き気、手足の震えと症状が次第に重くなってく。なら山での水をどう確保するべきか。
出典:モンキーピーク6 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
土に含まれる水分を抽出する方法がある。大きな布に土を入れ絞るのだ。こうすることで、土に溶け込んでいる水分を取り出せる。
もちろんこのままでは飲料水にはならない。雑菌により腹痛や下痢を起こせば、脱水症状が加速され一気に死に近づくからだ。
一つの判断のミスが命取り。そんな緊迫感がこの漫画にはある。生き残っても、脱水症状による体の不調がしだいに現れていく様子は恐怖だ。
疑心暗鬼になる人間たち
大猿に命を狙われ極度の緊張感、想像を絶する疲労と空腹、喉の渇き、過酷な状況下で疑心暗鬼になるのも致し方ないこと。
中岳小屋に到着したとき事件は起こる。ここにきて疑心暗鬼が爆発したのだッ。もしや、この中に大猿の仲間がいるのではと疑いだす。
そんなとき、リーダー的立場をとっていた安斎が疑わしき人間を拷問すると言いはじめた!安斎の横暴を誰も止められず拷問は執行。
出典:モンキーピーク4 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
犠牲になったのは氷室。氷室の行動に違和感を感じた安藤は、腕を縛りつるし上げ暴行。拷問はエスカレートし指を切断するのであった・・・
疑わしき人間は拷問し、足手まといは見捨てる、安斎の横暴な行動は仲間割れを引き起こし、犠牲はさらに増えていく。
モンキーピーク魅力まとめ
ここまでモンキーピークの読みどころをザックリ紹介してきました。自然を舞台にしたサバイバル系漫画が好きならおすすめな作品です。
謎の巨大猿、仲間の裏切と疑心暗鬼、主人公とヒロインが生き残る的なハリウッド映画とは一味も二味も違う、深く楽しめますよ。
なぜこうもこの漫画に恐怖を感じたのか考えてみたら、昨今の異常気象や頻発する地震と、無意識に現実と重ねていたのかもしれない。
モンキーピーク真相考察【ネタバレ】
ここからはモンキーピークのネタバレありによる考察へと進みます。すでに読んでいる人が対象。12巻で完結した本作の謎に迫ります。
明かされる計画的犯行
まずは裏切り者の正体から考えていきます。藤谷製薬の社員が巨大な猿に狙われのには、意図的な殺意があったのは明らかでした。
安斎の非道な行動はともかく、仲間に裏切り者がいると疑っていたのは正解、裏切り者の手引きによって次々に殺されます。
出典:モンキーピーク10 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
首謀者は長谷川。三年前の藤谷製薬の薬害疑惑が発端でした。この事件で8名が死亡し後遺症を患った被害者が多数発生しました。
裁判になるも証拠不十分で藤谷製薬の完全勝訴。しかし、長谷川は会社ぐるみによる証拠隠ぺいの事実を知り復讐を誓います。
復讐の場に山を選んだのは、元々登山に精通していたから。復讐に加担した仲間には、登山家の水口さなえもおり、山に詳しい人材がそろっていた。
大猿の正体と意味深な行動
大猿の不審な行動にも触れたい。鉈で無差別に襲ってくるかと思えば、確実に殺せる場面なのに、なぜか襲ってこない大猿。
そもそも鉈、火縄銃、火炎瓶と道具で襲撃してくる時点で、野生の猿ではないのは明らかで、その正体は猿の着ぐるみを着た人間というオチでした。
出典:モンキーピーク8 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
大猿の着ぐるみを着ていた人間は薬害事件の被害者たちでした。正体が分かれば、あのとき意味深な行動の理由が分かります。
第一話のテント襲撃で、早乙女と大猿が鉢合わせになったにもかかわらず見逃していたけど、これは早乙女が殺す対象でなかった。
早乙女はこの惨劇を後世に伝える「語り部」としての役割を課されていたため、殺す優先順位は一番最後。そのため見逃されたわけです。
このほか、中岳小屋で八木が大猿と直面したときも見逃されますが、これは八木が藤谷製薬の社員ではないため殺されなかったわけです。
大猿とは別の「魔猿」の存在
大猿の正体は人間でしたが、六ッ倉連邦には生物としての魔猿も登場します。八木は「猿神」と呼んでいましたが、あのバケモノの正体とは?
詳細には説明されていないものの、過去の文献に登場するほど昔から、あの辺一帯で悪さをしていた猿だったらしい。
出典:モンキーピーク5 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
六ッ倉連邦に纏わる伝説「六ッ倉猿神奇聞」によれば、悪さをする猿は僧侶(道庵)に退治されたというが、残党が生き延びていたようだ。
ちなみに、怒りにより人間は猿にもなれるというオチが前面に出てきてしまい、魔猿の存在が希薄になってしまった。
ただ、魔猿が本当に死んだのかは不明。たしかに魔猿は倒されたように見えたが、その後どうなったかは描かれおらず曖昧なラストになっていた。
119話ラストコマでの血に染まった二つの鉈、そして、その側には魔猿と思しき巨大な足跡が描かれていた。つまりは・・・続編へw
登場人物の伏線考察
早乙女の人殺しの噂
各登場人物にも伏線が張られていました。たとえば主人公の早乙女、早乙女には複数の伏線がありますが、その中でも過去の人殺し疑惑。
結論からいえば、早乙女は人殺しはしていませんでした。父親の死も登山での不慮の事故で早乙女が殺したわけではない。
また、高校時代のバイク事故も運転していた人物が曖昧でしたが、死亡した友達が運転していたことが明らかになります。
社会人になっても高校時代のトラウマが蘇り、殺したことを否定できなかったことから、誤解をうむ噂が独り歩きしてしまったのです。
八木兄妹の関係性は
中盤から登場した八木兄妹、猿たちの狙いは藤谷製薬への復讐のため、八木兄妹は完全なとばっちりですが、彼らの関係性は気になるところ。
二人が兄妹だったというのは事実でした、ただ、一般的な関係ではなく、愛し合う歪な兄妹関係だったようです。
岩砕山の中腹にあった八木兄妹の秘密の場所。そこには、八木兄妹が山で拾ってきたものが大切に保管されていました。
その中には「避妊具」と明らかに場違いなモノがあり、つまりは、八木兄妹があの場所で愛し合っていたことを意味していた。
林の早乙女へのメッセージ
林は早乙女に対して「生き残ったことには必ず意味がある」と意味深なセリフも伝えていますが、その真相も明らかになっています。
ラストでは、語り部の役割を果たすために本を出版するといった展開で終わり、この事件の記録を残そうとしています。
安斎が猿へと堕ちた理由(ワケ)
安斎は、絶対正義という己自身の倫理を基準とする偏った正義に則り行動していたキャラでした。その歪んだ正義はときに、他人を攻撃し傷つける。
過酷な状況だったとはいえ、あれが安斎の本性だったのは間違いない。ただ、他人を傷つけることはしても、決して命までは奪おうとはしなかった。
まぁ~、拷問する時点で人間失格じゃないのかってツッコミはあるものの、この漫画では、猿になることとは人を殺めることという設定がありました。
出典:モンキーピーク12 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
安斎のこのセリフが一番分かりやすい。猿は正義のためならなんでもやる恐ろしい獣です。人がいちばんやっちゃいけないのが命を奪うこと。
安斎は人殺しをきっかけに「猿になった」と言いますが、なんでもやることの最上級に人を殺すことがあり、その一線を超えた安斎は猿へと堕ちた。
猿へと堕ちるきっかけがコンパクトに、しかも分かりやすい設定のため、安斎の心情の揺らぎが理解しやすく、恐怖をよりダイレクトに感じられた。
もちろん、この基準は安斎だけでなく、藤谷製薬に怨みをもつ被害者にも当てはまります。つまり、長谷川たちもまた猿なのです。
なぜかといえば人を殺したから。さらにより深く考察していくと、118話での安斎と早乙女の直接対決の場面での描き分けに注目してほしい。
早乙女は宮田から鉈を受けとっています。鉈で攻撃すれば安斎を倒すことができますが、命を奪ってしまう可能性もある。
出典:モンキーピーク12 志名坂高次 粂田晃宏 日本文芸社
攻撃には使わなかった。鉈を振りかざしたのはフェイントで、タックルで倒そうとしています。つまりそこに殺意はないのです。
安斎への怒りはあるものの、彼の中では「殺す」という選択肢はなく、安斎との真逆の行動として描き分けていた。
早乙女のように、どんな窮地な場面に陥っても猿にならない人間もいるという作者のメッセージが込められていたのかもしれませんね。
モンキーピーク最終回で見せた笑顔
モンキーピークの最終回は、語り部として生き残った早乙女が、この事件を後世に伝えるために本を執筆します。
早乙女と言えば、第1話でのぎこちない笑顔の伏線です。自分をかばうために犠牲になった父親のトラウマからうまく笑顔ができないていた。
そんな彼が父親のトラウマを克服してどんな笑顔を見せたのか、それはラストにてしっかりと描かれますが、それは本作をご覧ください。
ちなみに、119話ラストでは「猿はまだいる」とあり、第二部へと続くみたい。モンキーピークはこれで完結とはならないっぽい。
モンキーピーク感想まとめ
モンキーピークを直訳すれば「猿の頂」ですが、ラストを読むと「猿山」という訳が個人的にしっくりきました。
さらにピークは「頂上」「山頂」といった意味だけでなく、「限界」といった意味もあり、いろんな意味合いを含ませていそうです。
猿の恐怖に仲間同士の疑心暗鬼、読みすすめるうちにのめり込み恐怖が増していく。サバイバル系漫画の中でもかなりの当たり作品!
しかも、各キャラクターの関係性や心情も分かりやすく描かれており、全12巻とはいっても思っている以上にサクサク読めるのもよい。
おすすめ。