漫画「ちーちゃんはちょっと足りない」は秋田書房が発行していた雑誌「もっと!」(現在休刊)にて連載されていた漫画。
作者は阿部共実さん。第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞に輝き、2015年版「このマンガがすごい!」オンナ編で1位を獲得。
評価の高い漫画なんですが、注意したいのはその内容。読者によって受け取り方が違い、鬱漫画という感想もあれば、ハッピーエンドなんて感想も見かけます。
一部の読者にとっては精神にダメージを与える鬱漫画なのは確かですが、ストーリーは少女の腹黒い部分にフォーカスした青春あるある話。
目次
あらすじ・ストーリー
中学2年生のちーちゃんはちょっと足りない。自分で靴ひもが結べなかったり、言葉がつたなかったり、九九が暗算できなかったりと、ちょっと足りない女の子。
そんなちーちゃんを中心に、小学校からの幼馴染のナツ、そして旭(あさひ)の三人のドタバタ学園日常漫画。ところが中盤から雲行きが怪しくなる。
主人公がちーちゃんからナツへとシフト、ここからナツのドロドロとした心情が描かれていきます。スクールカースト最底辺のナツたち。
団地に住んで、貧乏で、片親で、彼氏もいなくて、友達も少ない女の子、自分には何もない、足りないものだらけ、そんな少女の鬱々とした日常を描いていく。
みんなどこかちょっと足りない?

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
ちーちゃんと旭とナツ
タイトルの「ちょっと足りない」は、ちーちゃんだけじゃなく、ナツや旭にも当てはまり、そんな少し足りない女子が集まるのがちーちゃんグループ。
団地住まい
たとえば、ちーちゃんやナツが住んでいる団地。一般的に団地のイメージは貧しい人が住む家という認識は強いと思います。
ただ、これは偏見ではなく、法律からしてそうなってます。公営住宅制度の条文には住宅に困窮する低額所得者に対し、低廉な家賃で供給されるものとあり、団地=貧乏というイメージはある。
作者がちーちゃんとナツを団地住まいにしたのも、二人に足りないものの一つとして「貧乏」という設定を当てはめたかったからなのは明らか。
ちなみに、この漫画のモデルとなった場所は神戸市垂水。作中に登場する建物も実際に存在するんですが、ちーちゃんたちが住んでいた団地は市営住宅がモデルになっています。
ただ、貧乏はあくまでキャラ設定の一つであって、作中における重要度はそれほど高くない。ナツが言い訳するための逃げ口上の一つとして貧乏があっただけ。
実際、ナツは貧乏とはいいつつも、お小遣いをもらったり、外食にいけたりと、困窮とまでは言えない生活は送れていた。
主人公三人の関係性
一方で、ちーちゃんグループにいる旭のキャラ設定は異なります。団地ではなく一軒家に住み、平均よりも生活水準が高いキャラとして登場します。

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
ストーリーを見ても、ちーちゃんはともかくナツに対しても旭は自分のことを決して話していない。恋人のこと、海外旅行のことなどいつも一緒にいるのに後回し。

旭はどこかちーちゃんたちと距離を置いてる。学校だけの付き合いって感じで、仕方なくいる、ほかにつるむ生徒がいないから一緒にいる、そんな風にも見えます。
旭は「異質」な存在とも言えるけど、なら、旭はちーちゃんグループにしかたなく属していた理由ってなんなんだろうか?
旭はハブられていた?
旭の異質さの正体はなにかなと考えると、リアルをイメージすると分かりやすい。学校での人間関係って自然と同じカーストの生徒でつるむ傾向がある。
カースト下位の生徒は、カースト上位の生徒からからかわれたり、いじめられたり、バカにされたりといった構図が少なからずあると思うのよ。
そう考えたとき、やっぱり旭だけ異質。頭はいいし、お金持ちだし、一軒家に住んでるし、恋人もいる、同じグループだけど旭のキャラ設定はちーちゃんたちと別です。
ちーちゃんと旭の違いちーちゃん | 旭 | |
家 | 団地 | 一軒家 |
成績 | 不得意 | 優秀 |
恋人 | いない | いる |
両親 | 普通 | 金持ち |
胸 | ペッタンコ | 巨乳 |
ちーちゃんとナツと比較したとき、旭はいずれも違ってます。胸までもしっかり描きわかれており、旭はかなりのデカさです。とても残酷ですw

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
こんなにも違う旭がちーちゃんグループと友達付き合いをしてたのは、恐らくクラス内の女子生徒からハブられていたから。あからさまハブではなく、マイルドなハブね。

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
我が強く物事をハッキリ言う性格がアダとなり、女子特有の空気感や距離感が掴めなかったのかもしれない。さらに、三年のサッカー部キャプテンとも付き合うようになったことで、妬みもあったのかもしれない。
物語後半になるにつれて、ちーちゃんグループ以外の女子とも仲良くするようになっていくのも、当然といえば当然。リアルでもよくある光景。
ちーちゃんは障害持ち?
ちーちゃんにも触れていきます。作中では「障害持ち」ともとれる描写がありました。言及されてはいないものの、たとえばこのシーン。

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
お姉ちゃんと靴を買いにジャスコへいく道中、ちーちゃんは目につくものすべてに興味を示すため、なかなか目的地にはつけない。
この行動ってADHDの症状にも受け取れます。さらには、同級生の藤岡は、授業中にもチョロチョロしているとも言っていた。
あくまで考察ですが、注意散漫な描写が描かれていたことは確かです。また、他生徒よりも発達がやや遅いようにも思えたのも事実としてあった。
同級生のちーちゃんへの接し方をみても、まるで下級生に接するような感じて、優しい対応。言葉にはしてないものの、なんとなく感づいていたのかもと思ったりもします。
作者がなぜこのキャラ設定にしたのか考えてみるに、ストーリーからしてナツの存在を際立たせるためだったのかもしれません。
とくに終盤における主人公はちーちゃんよりもナツでした。ナツのドロドロとした心情を際立たせるためのキャラ設定だったのでしょうか。
いずれにせよ、ちーちゃんのキャラ設定によって物語が残酷になったのは確か。そしてナツの陰鬱とした心情もドロドロさを増した。
ナツの鬱々とした心の中
ここまで話してきただけでも、中学生の甘酸っぱい青春というよりも、女子独特のドロドロ交友関係が話題に中心です。まさに鬱な展開です。
そして、輪をかけて物語をドロドロさせていたのがもう一人の主人公であるナツの存在。なつの「足りない」不満が日々の生活で噴出していきます。

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
家が貧乏で、クラスでも存在感のない目立たない子、勉強は出来も悪くもなく、平均よりやや下で、友達は少ないく恋人もいない。
ナツは他人と比べて自分になにもないこと、足りないことに自暴自棄になっていく様子が描かれていきますが、これがキツイ、精神的にキツイ。
ですが、ナツが自分の本心を吐露する場面が最後に描かれてますが、そこには鋭いトゲがはえた痛々しい言葉ではあるものの、どこか共感する部分もあります。
言葉には出さないけど、シネとか思ったことあるでしょ。友達に彼氏ができて顔は笑ってても、心の中ではムカついてることだってあるでしょ、ないってのはそれこそ欺瞞。

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
私はクズだ
この漫画は思春期のドロドロとした感情にフォーカスしているだけど、大なり小なりみんなナツのような感情は持ってると思うんだよね。だから、読者に受け入れたんだと思う。
登場人物に共感できなかったら、きっと「このマンガがすごい!」で第1位になんてならないはずです。内向的な性格のせいか、負の感情がすべて内側に向かい、足りない理由を自分のせいにしてしまう。ナツはそんな少女です。
ちーちゃんはちょっと足りないの結末
漫画「ちーちゃんはちょっと足りない」の結末はどうだったのか。ナツの心をより深く知るためにも、簡単にですがあらすじを紹介していきます。
ちーちゃんとナツ、旭の日常生活が進む中で、あるときクラス内で事件が発生します。バスケ部の集金三千円が盗まれてしまいます。
盗んだ犯人として疑われたのがちーちゃん。これに怒ったのが旭なんですが、実際はちーちゃんが盗んでいたんです。

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
藤岡と旭
結局はちーちゃんが盗ったことがバレてしまい、バスケ部で同じクラスの藤岡に謝ることで、一件落着。この事件をきかっけで旭は藤岡たちのグループと急速に仲良くなっていく。
ちーちゃんも藤岡に謝ったことで水に流してもらえ、藤岡とも仲良くなっていきます。ただ、この状況で蚊帳の外の生徒が一人。
もう一人の犯人ナツ
そもそも、ちーちゃんが藤岡のお金を盗んだのは、いつも遊んでくれるナツにお礼をしたかったためでした。盗んだ三千円のうちの千円をナツに上げていたんです。
お金を盗んだことがバレたときに、ちーちゃんは藤岡にお金を返しています。でも、ちーちゃんが持っているお金は二千円だけ。
残りの千円はナツにあげたため足りない。残りのお金はどうしたのか旭に追求されるものの、ちーちゃんは最後まで口を割らなかった。

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
一方、ナツはどうだったかといえば、お金をもらったことは打ち明けなかった。藤岡にお金を返すこともなく口を閉ざします。
旭から疑われるも「お金はもらっていない」と最後までウソをついてしまい、これがきかっけで、ナツは旭との絶交を決意、ちーちゃんだけしか友達がいなくなってしまった。
足りないのはだれ?
ナツは心の中にはいるも「自分にはなにもない子、足りない子」と劣等感を持つ少女として描かれていました。ですが、実際にはそうでもない。
ナツ視点で描かれているので、どうしてもナツの主観が入り込みますが、ストーリーは中学生(特に女子)あるある話を極端にしたのが本作。
ラストではちーちゃんとナツの友情を描いていますが、ちーちゃんとは違い、ナツは他のグループに居場所を見つけたらすぐにちーちゃんを切り捨てるタイプw
さらに言えば、旭が藤岡と仲良くなった様子は描かれているけど、旭がちーちゃんたちを裏切ったかどうかは微妙なところです。ただ、ナツがちーちゃんから千円をもらったことは旭は感じ取ったはず。

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
そこには旭の姿はない・・・
そして、ラストのコマは第一話ラストと同じ構図になっていますが、一話では旭がいたけど、八話ではその姿がなくなっていたことから、旭との関係が断絶した暗示としてラストを迎えていました。
三人の関係性がどうなったのか、結末は描かれていないけど、ラストのコマを見る限り、旭とは友達じゃなくなるのかなと思う。そして、お金を返すこともしないんだろうな。
ちーちゃんはちょっと足りないみんなの感想・評価
ここからはちーちゃんはちょっと足りないを読み終えての、みなさんの感想や考察などを紹介してきます。さまさまな感想があって面白い!
一番多かった感想は心が揺らぐほどの衝撃を受けてしまったという意見、その衝撃度は一生トラウマになるほどのものだったという人もいるほど。
今日、というか昨日ついうっかり「ちーちゃんはちょっと足りない」を読んでしまい、心がぐんにゃりしてしまった
ちーちゃんは何処までも純粋無垢で後先考えたりしない…
最後も救われない感じで、それも含めていい………— キキ (@kiki_deepinside) October 9, 2019

久しぶりにちーちゃんはちょっと足りないを読み返したら心をチクチクされる場面が多すぎて読むの断念した
— ハナカミリュウ (@Nakayakusyon) October 8, 2019

メンヘラ中高生には是非ナツの気持ちになって「ちーちゃんはちょっと足りない」を読んでもらいたい。
そして感想を聞きたいでごわすな。— ダラク・ニンジャ (@DARAKU_NINJA) July 27, 2019

このほか、自分なりの解釈や考察をしている人も多くいました。この作品を読んだ後には誰かに語らずにはいられない作品でもありますね。
私は貧しい家庭にしちゃ色々与えられた方だけど、それでもどうしようもない劣等感や焦燥感が常にあって、そういうのをしっかり描いているのが阿部共実さんの「ちーちゃんはちょっと足りない」だと思う
あのリアル感はどうやったら出せるんだろうか— ムササビパンチ (@musasabipunch) September 15, 2019

例の佳作読んでて『ちーちゃんはちょっと足りない』の優れてるに点に気付いたんだけど、あれ、この世界は胸糞でしたって話じゃなくて、自分自身が胸糞を創る主要な要因でしたってところが絶望度が高のだよな。いじめをしそうな女子生徒たちの方がよっぽどいい人間だし。自業自得で胸糞。救いがない。
— 秋島 (@akisima5031) June 15, 2019

阿部共実の「ちーちゃんはちょっと足りない」を思い起こさせる胸糞っぷり https://t.co/sxlpiW0e48
— sisyamo (@sisyamo22robo) June 15, 2019

似ているテイストとしてツイッターで紹介されていた浄土るる先生の「鬼」、読んでみたらたしかにと思えるストーリー。
ただ、かなり鬱ストーリに救えないラストなので耐性がある人のみ挑戦してみてください。上のリンクは小学館の公式サイトにて無料で読むるサイトになります。
人生はクソほど長い
一番多感な時期、日常や学校、友達と、他人と比べてその矛先が自分に向かってしまうのがナツ。自分の心を傷つけ、自分の心を最優先した、ま、矛盾してるけどね。
クラスカーストの最下位を経験したことがある人は、たぶんナツのことを共感できるんじゃないかな。ぼくも中学はカースト下位だったから分かる。

出典:ちーちゃんはちょっと足りない 安部共実 秋田書房
どーでもいい、無関心感
このシーンとか共感しまくり。
授業がはじまってる途中にクラス内に入るのって心臓が飛び出るかってくらい緊張する。過去のトラウマが蘇るようだわ。
ただ、カーストも高校、大学とかで全然違ってくるのは確か。環境によってびっくりするくら全然接し方が違ってくるのも事実。
この漫画を読んで萎えたり鬱発病しそうになった人でも、人生の先輩として、けっこう人生なんとかなるしやり直せることはできる。
でもね、一つだけ大切ことがあって、変わるためには勇気や努力はどうしても必要になってくる(そこが一番難しいんだけどね)。
オワリ