この作品のアマゾンレビューがやたら多い。
どうやら某芸能人がテレビで「これ面白いよ」って言ったのがきっかけで、人気に拍車がかかったようです。
叙述トリック好きとしては読まなきゃあかんと思い、さっそく読んでみると、これがめちゃんこ面白い。星4は付けたい。
けど、アマゾンの総合評価はそこまで高くない。考えるにトリックに
納得がいかない!
からなんでしょう。
たしかにそのツッコミは100%共感できますw
けど、それを差し引いても魅力は十分にある。そこで、今作で使われた叙述トリックをいろいろ考察しながらアレコレ書いていこうと思います。
[aside type="normal"]叙述トリックの考察なのでネタバレ含みます!未読の方はさようなら[/aside]
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叙述トリックの醍醐味
叙述トリックの醍醐味は二周目にありというのが持論でして、今作もまさに二周目も面白かったと思えた作品。
ネタを知る前と知った後で作品の表情が変わるのが叙述トリックの魅力の一つ。1つの文章に二つの意味を持たせる。
読者を騙す文章とその奥にある本来の文章
男だと思っていた主人公が実は女性だった、青年だと思っていた主人公が爺さんだった、現在進行形の話だと思ったら一年前の話だった、、、トリックを知る前と知った後での文章の受け取り方が違ってしまうのが叙述トリック。
今作、「葉桜の季節に君を想う」の叙述トリックはなんだったのかと言えば
年齢によるトリック
でした。
女を貪る主人公設定も、ヤングな装いも、すべて読者を騙くらかそうとする作者の罠(トリック)にしてやられた。
主人公にみる叙述トリック
まず冒頭、女を買いあさるエロ主人公・成瀬将虎(なるせ・まさとら)という設定を持ってくる。
若さの象徴=息子の元気度
は固定観念の王道である。
息子の元気がなくなってきたという悩みは若者よりはおっさんの悩みである。今作ではおっさんを通りこして「おじいちゃん」ではあったがw
射精したあとは動きたくない。
出典:葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
最初の一行目がこれである、この文章からどうして成瀬がお爺ちゃんだと思うだろうか。性欲旺盛な成瀬、まずこの設定が叙述トリックを隠すポイントの一つであった。
探偵時代のエピソードを挟んでいたのも、叙述トリックを隠すためと捉えられる。ほかにも、「ネガティブ」や「バイタリティー」といった70歳にしてはヤングすぎるセリフも、若い女性と交流していたことから違和感はさほどなかった。
とはいえ、今作は冒頭から年齢トリックの伏線が露呈していたのも事実でした。
キヨシというサブキャラ
たとえば主人公・成瀬を慕っている後輩キヨシの言動はけっこう、というか、かなり穴ボコだらけだったように思う。
「六本木で一杯やっていくか」
俺はキヨシを誘った。出典:葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
キヨシは都立青山高校に通う高校生、読者には10代に見せかけて(実際は60代の爺さん)登場させていた。成瀬がキヨシを誘うとき、「一杯やっていくか」と酒を飲むニュアンスを残していた。
10代の後輩を誘う場合、「一杯やっていくか」ではなく「食べに行くか」というのが一般的ではないだろうか。リアルと比較して最初に違和感を感じたセリフだった。
仮に成瀬の性格が男気あふれる豪快な性格であるなら、こういう表現もあるかもしれない。女性遊びが激しい描写もあったわけだからね。
けどキヨシの行動にはほかにもコイツ成人過ぎてんだろ!という描写があった。
キヨシが感慨深げにタバコをくゆらす。
「高校生は喫っちゃいかん」
俺はタバコを奪い取る。
出典:葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
普通にタバコ吸ってますw
綾乃という妹
ほかにも主人公・成瀬の年齢トリックが分かりやすい描写として、妹の綾乃の容姿を説明した箇所があった。
鏡の中の綾乃は、髪は金色、ちりちりにパーマがかかり、サイドに赤のメッシュまで入っている。ワンピースは、赤地に白で蔓草(つるくさ)模様を描いたもの。肩の部分はシースルーになっている。
出典:葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
注目すべきは髪型のいい方であるw
初登場時の綾乃の年齢は20代半ばくらいかなと思っていたのだが、そうして読み進めていくと、いきなり「ちりちりのパーマ」をしているという。
▲ガキ使のキスおばちゃん、まさにチリチリなパーマであるwww
ちりちりのパーマっていったら、虎の顔がプリントされたラメ入りTシャスを着た大阪のおばちゃんを真っ先にイメージしてしまった、ガキ使のキスおばちゃんのような。つまり、
この女、けっこうなババアだな
と確信できた瞬間であったwww
ヒロインにみる叙述トリック
若者と思わせておいて、実は70歳の爺さん婆さんたちが主人公のミステリ作品、それが「葉桜の季節に君を想うということ」で使われていた叙述トリックでした。
今までは主人公・成瀬とその周囲の人物から考えていきましたが、今度は今作のヒロインである麻宮(あさみや)さくらから叙述トリックを考えていこうと思います。
※本名の節子を含めさまざまな名前を使っていたがここでは「さくら」で統一します
秀逸な名前
タイトルにある「葉桜」にはヒロインのさくらが掛かっていたわけですが、この名前の付け方がけっこう秀逸だったりします。
この作品が発表されたのが2003年、その時点での70歳と考えると、生まれは戦前より前になる。女性でよくある昔の名前といえば花の名前。
梅さん、菊さん、松さん、といった名前を付けることは今ではほとんで見かけない。一方で「桜」といの名前も昔からあった。日本を代表する花でもあるが、なぜか梅や菊と比べると、名前に今っぽさを帯びている。
こうしたちょっとした言葉のニュアンスやイメージは叙述トリックには度々登場するわけですが、同時に、日本語というか言葉の面白さを感じたりもする。
ほかにも「女」という言葉。
女といえば無意識に若い女性を指しており、お婆さんに対して「女」という言葉は普段使わない。女というニュアンスにはどこかナマナマしい性を感じさせるからかもしれない。
こうしたちょっとした言葉のニュアンスは、普段意識していないからこそ固定観念にハマりやすい。そこをこの作品はうまくついていると思う。
成瀬への感情
個人的に府が落ちなかったのはさくらの複雑な感情の説明。これをどう理解すればいいのか。
「ただのカモだったはずなのに、気がついたらあなたのことを好きだと思う自分もいて、だから、死んだら悲しいから、助けなければならないと・・・」
出典:葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
とあるが、さくらの性格はその場の雰囲気に流されやすい女。はじめは蓬莱倶楽部にいやいや手を貸していたが、いつしか自分から率先して保険金殺しをするようになっていった。
こういうところにも状況に流されやすい性格が描かれていた。
古屋節子は昔から何でも買ってしまう女だった。物が好きなのではなく、その場の雰囲気でつい買ってしまう。
出典:葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
「古屋節子が築いた屍」の最初に書かれたさくらの性格。成瀬と一緒に過ごしていく中で感情が揺らいでいったのも分からなくはないか。
小道具による伏線がニクイ
叙述トリックのヒントを作中でどこまで読者に晒すか、ここも作者の腕の見せどころだと思う。その中でも今作はかなり巧みに与えていたと思う。
ジル・モンロー
たとえば主人公の成瀬が例えていた有名人。
チャーリーズ・エンジェルのジル・モンロー。チャーリーズ・エンジェルといえば映画が有名だが、元はテレビドラマからはじまったシリーズらしい。
さらに作品やどの俳優が登場していたかは知っていても、役の名前まで(ファンであれば別だろうが)憶えていることは実際少ない。
映画「シン・ゴジラ」に登場する石原さとみや竹ノ内豊など役者の名前は覚えているが、役名をフルネームですぐには思い出せるだろうか。邦画でこれである、洋画ならなおさらであろう。
成瀬が例えに出したジル・モンローとはテレビドラマシリーズの第一作目に登場していた役名である。おそらく多くの読者はテレビ版ではなく映画版をイメージしていたのではないだろうか。
実に巧妙なヒントだった。
携帯電話の機種名
ほかにも携帯電話の機種にもトリックのヒントがあった。
俺はオンとオフを区別するために携帯電話を二台持っているのだが、F6なんとかとかN50なんとかiなんとかといった機種名を覚えるのが面倒なので(以下省略)
出典:葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
F671iやF671iSはドコモから発売されていた「らくらくホン」という年配向け専用の携帯電話。操作ボタンが大きく、画面の文字も大きく表示されるなどの特徴がある。
しかしである!
一応これらは伏線ではあるのだが、ここから叙述トリックを見破るのはほぼ不可能だと思う。
理由は
古すぎるから。
それよりも、読み返したときにこうした何気ないところにも、作者の巧妙なヒントが隠されている、そういうのを発見するのが面白いのであーる。
「なりすまし」の伏線について
年齢についての叙述トリックを見抜けた人は少なからずいたと思う。けど、もう一つの主人公とヒロインが共に他人になりすましていたトリックには一ミリも気づかなかった。
が、一応ヒントというかそれらしいところはあるにはある。
まず一つ目に冒頭の主人公・成瀬の紹介文章。
肉体を欲する一方で、肉体とは無縁の肉体にも憧れる。虫のいい話だ。矛盾している。俺の中には二つの人格が存在している。
出典:葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
自分の中に二つの人格があることを言っているが、これは性欲に関することなので、まぁ、トリックのヒントにするには無理があるのは重々承知ではあるが、こういう文章もあるにはあったw
もう一つは成瀬がみていた墓堀りの悪夢。
土をすくって後方に撒くと、時折その中にキラリと光るものがまぎれている。五円玉、十円玉、百円玉、さらに目を凝らすと、百円札や千円札も確認できる。
出典:葉桜の季節に君を想うということ 歌野晶午
これは成瀬がみた悪夢の一部だが、土を掘っていくと古銭が出てくるというのは、なりすましをしていた安さんが話していた昔話と一致することから、これは安さんの墓を掘っている夢であることが分かる。
しかし、だからといって成瀬が安さんに「なりすまし」ていたことまでは分かりようもなく、難易度はすこぶる高いように思う。
というわけで、この作品は年齢という比較的分かりやすい叙述トリックを隠れみのに、なりすましというトリックがその奥に潜んでいた。
おわりに
もう10歳ほど若ければ理解できなくもない。60歳代ならおキレイな女性も多いですからね(マ、マジか・・・)。
ただ、70歳になると、さすがに介護プレイですか?と質問しちゃうレベル。テレクラで男漁りするさくらは、需要がないだろうと心の底から思うし「そんなバカな」と本気で思ったからねw
それでも、叙述ミステリの中でも大当たりにはいる作品。テレクラ需要はともかく元気なジジババはリアルにも普通にいる。
碁会所に行くと、パソコン教室に通っている方をよく耳にする。カルチャーセンターや公民館とかで開かれてる教室で習っているようだ。
マウス操作に甘んじて、講師のお姉さんの手をニギニギしたとかセクハラ自慢している頭の回転がスコブル速い爺さんは普通にいる。
ちなみに女性はみなさんパワフルですwww