古谷作品のプロットには必ず冴えない男、美女、殺人、ヤーさんが登場する。「わにとかげぎす」のように読み手によって読後感が変わる作品もあるけど、基本はダサ男と美女とがくっつくストーリーが多い、というか、これしかないw
「ヒメアノール」のストーリーも過去のシリアス作品と同じだけど、主人公が2人というのが新しい試みだったと思う。
それによって笑い+シリアスという緩急はついたけど、古谷先生のギャグセンスが天才的なので安藤ストーリーに引っ張られて、せっかくのシリアスが薄れてしまうというイレギュラーが発生w
個人的には森田の狂気じみた人生だけで勝負しても面白かったと思うんだけど、そうなると重すぎるのかな??
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あらすじ・ストーリー
東京に上京し清掃会社で働く岡田は友達も彼女も1人もいない今の孤独な人生に絶望を感じていた。そんな不安を職場先輩かつ友達の安藤に相談する。
出典:ヒメアノール1 古谷実
だが安藤も同じく、30にして未だ童貞、女性と1人も付き合ったことがないことを暴露し同じムジナどうし意気投合していく。
しかし、岡田の悩み相談がいつしか安藤が今好きだという娘さん・阿部ユカについての相談に話はずれていき、いつのまにか協力する羽目になる岡田。
出典:ヒメアノール1 古谷実
安藤の命令でユカと接近し彼女がフリーかどうかを聞き出す作戦を実行しているとき、ユカがストーカーに付け狙われていることを知る。
しかも、そのストーカー男は岡田の高校時代の同級生・森田であることを知り、二人の接点が繋がりはじめていく。
もう一人の主人公・森田は高校卒業後に東京へ上京するも、定職にはつかずパチンコ三昧の怠惰な生活を送っていた。森田が抱える底知れぬ秘密、ストーカーとしての心理描写は読みごたえあり。
出典:ヒメアノール2 古谷実
何気ない日常を過ごしていた岡田の前に森田が現れたことで、次第に血と狂気が隣り合わせな非日常の世界にまきこまれていく。まさに古谷ワールド全開。
安藤という癒しキャラ
安藤はとにかくピュアな男、31歳ながらいまだチェリーボーイのため女性に関して敏感すぎるのであるw
20歳のユカに恋したのもそのお花畑のようなピュアさのため。しかし、当然ながら撃沈してしまう。
だが安藤はめげずにフーゾク嬢、同じ会社で働く35歳の独女・山田と手当たり次第に声をかけ、なんと山田さんとデートまでもちこむことに成功する!
出典:ヒメアノール3 古谷実
チェリーとはいえ男気はある安藤。いいぞ!と思いながらも、実はフーゾク嬢に振られて自暴自棄になり、その腹いせに手当たり次第に「好き」と声をかけていたことが発覚。
心をもてあそぶ悪魔と化していく安藤。しかしやはり憎めないのであるw
出典:ヒメアノール3 古谷実
おばさんの胸チラに興奮してしまい、腹いせから一点山田さんを本気で好きになってしまう、ピュアピュアハートな安藤。やっぱいいキャラしてるわ。
年齢も近いしお似合いのカップル同士、ハタチそこらの女子に恋を抱くよりも100万倍現実志向だが、残念ながら思いは届かない。結局ラストのオチは古谷ワールドあるあるな20代美女に一目ぼれされるといういつもの黄金パターンに。
出典:ヒメアノール3 古谷実
何十苦だよと思うぐらい可哀想な安藤さんですが、最後の最後でようやく気付く、自分がバカでアホで借金まみれで、アルバイトの31歳のダメ男で、こんなヤツに好きだと告白してくる21歳の美女が今後遭遇した奇跡という現実に!
今作でハマってたかといえば微妙ですが、安藤さんには幸せになってほしい限りですwww
【ラストの真意】森田の涙
森田の殺人衝動は快楽のためだったのか。
人間の首を絞めることに快楽と興奮を感じてしまう快楽殺人者という一面。しかし一方で彼はどうしようも抑えきれない殺人衝動に悩んでもいた。
出典:ヒメアノール6 古谷実
純粋に「人を殺すこと」に疑問を持っていた森田、このセリフからも彼にとって世の中がいかに生きにくい世界なのかが分かる。
たまたま普通のヤツらとは違っていただけで俺を病気扱いする。足が速い、歌がうまい、人にはない能力を一方では才能として称賛する、これっておかしくね?
と安藤は言う。
出典:ヒメアノール6 古谷実
彼にとっては病気ではない。病気はどっかのだれかが勝手に付けたラベル。俺をそんなクソみたいなものに分けないでくれ、普通の奴らはそれいいかもしれねーけど、普通じゃねえ俺はどうなるの、そんなのズルくね?
森田の言い分は一方的で受け入れうことは当然できないが、普通でない人間として生まれてしまったとある快楽殺人者の吐露としては迫るものがあった。
出典:ヒメアノール6 古谷実
そもそも森田のこのズレはどこからくるのか。それはこのコマですべては説明が付くと思う。感情や感性を司るとされている右脳の削除、このコマで森田は感情や共感が著しくの欠如してることを作者は表現していたのだろう。
左脳の欠如=結局病気じゃねぇかとツッコミはあるが、作者による答えだと思う。高校のときに初めて自覚した「自分は普通ではない」人間であること、このとき涙を流して死にたくなるほどの絶望を感じた過去が明かされる。
出典:ヒメアノール6 古谷実
ラスト森田が警察に声をかけられたとき泣いていた理由も、あの当時の記憶を思い出していたからだ。彼の中には確かに快楽的な殺人衝動はあったが、理性のせめぎ合いは確かにあり、そして心のどこかで叫んでいたのかもしれない
助けてくれ
と。
おわりに
快楽殺人者の心情を深くリアルに描き、森田というキャラはとても魅力的に描かれていた。それだけにもう一人の主人公岡田の存在感が薄すぎた。
森田に限って言えば、今までの主人公とは違う視点で描かれていたのも古谷作品の新しい試みで面白いと思った。ですが安藤が面白すぎた。
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