「わにとかげぎす」はヤンマガで連載されていた漫画。作者は稲中卓球部でお馴染みの古谷実さん。
稲中はド下+シュールネタでジャンルとしてはギャグマンガですが、対照的に後味の悪い作品も出しています。
この作品はヒズミやシガラテよりのかなりシリアスな作風となっています。全4巻で完結しますが読み応えは十分。2017年夏にドラマ化されるということで、その原作を紹介。
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あらすじ・ストーリー
主人公は富岡ゆうじ32歳独身。スーパーの深夜警備員として7年間勤務働いてきた彼は、深夜勤務ということもあり職場仲間もなく公私ともに1人ぼっち。ケータイ1つも持ってないない男。
出典:わにとかげぎす1 古谷実
それでも平気だった、今までは。ここ最近になり、突然なんとも言えない不安に襲われるようになっていく。未だ女性とまともに付き合ったことがなく、友達1人さえいないことに絶望的な寂しさを感じる富岡。
出典:わにとかげぎす1 古谷実
あまりの寂しさに勤務先のスーパーの屋上で1人願う富岡。しかし、彼にできたのは友達ではなく一回りも年下の美人彼女!お隣さんという奇跡のような縁から、彼女こと羽田が一方的に好きになっていく。つまりブサメン好きだったのだ!
出典:わにとかげぎす4 古谷実
32年間、下を向いて歩いてきた富岡に訪れた千載一遇の春、しかし、同時に彼の周りではさまざまなトラブルが起こっていくといったサスペンス恋愛マンガ。
寄り添う恐怖
富岡の人生が変わっていくにつれ周囲にも変化が起こっていく。ただそれはいい面ばかりじゃない。他人と関係を持つということは、つまりは面倒を引き受けることでもある。
古谷さんの作風では日常に潜む恐怖っていうんですかね、毎日同じ時間に家を出て会社や学校に行き帰る、何気ないに日常を当たり前のように思っているけど、明日どうなるかは誰にも分からない。
平凡な日常は精巧な歯車の噛みあわせみたく実は繊細で、何かが狂えば一気に階段を踏み外すことだってある。そんな気付かない素振をする読者の眼前に「目をそらすなよ」と恐怖をグイッとに向けさせる、だから怖いのよ。
偶然あった赤の他人、配属された新人、富岡に降りかかる災難は命さえ落しかねないものばかり。ずっと一人だった彼には耐えられないほどの重圧。
出典:わにとかげぎす1 古谷実
ギャンブルで多額の闇金に手を出したオッサンがひょんなことから知り合いになった富田を巻き込んでいく。ヤーさんにボコボコにされ浴槽に放置される救いようのない男や、好きな女のために泥棒の片棒を依頼してくる会社の後輩。
出典:わにとかげぎす2 古谷実
そこで見えてくるのは三者三様の群像劇。ニート、ストーカー、犯罪者、どす黒いほどの欲望はやがて犯罪に手を染めていき、取り返しのつかない崖っぷちに追い込まれていく、怖い、怖すぎる。
彼女
タイトルの「わにとかげぎす」とは魚類の分類の一つで「ワニトカゲギス目」と呼ばれていて種類を指しているんだとか(ウィキより)。この科に属する魚は主に深海魚に多く、主人公に重ねているわけだ。
孤独な男・富岡を救ったのは羽田という女性だった。2人が付き合うようになってベンチでこんな会話をする。「深海にすむ生き物が急激に水面に引き上げられると目玉や内臓が飛び出てしまう」という。
出典:わにとかげぎす3 古谷実
深海魚を自分にたとえて富岡は「オレは破裂しないようゆっくり上がります」と自分の想いを語る。羽田との出会いで少しずつ人生が変化していく富岡は32歳にしてようやく浮上しはじめていく。
浮上中
富岡は羽田との同棲をはじめ2人の関係は順調に進んでいく。今まで自分にはあり得なかった「結婚」という二文字を本気に考えだし、二人のこと、仕事のこと、そして赤ちゃんのこを真剣に考え始めていく。
ならこのまま二人は順風満帆なハッピーエンドで終わるのかといえば、読後感は決してそうではない。富田はここ数日でいろんな人達と出会い、それがきっかけで転職したり、それこそ孤独を克服した斉藤なんて強者とも出会ったw
たとえば単行本の表紙。
3巻では富岡の顔のドアっプがありその背景には魚(ワニトカゲギス目)が浮上している様子が描かれている、しかし4巻ではどうか、逆に深海へと潜っている描写が描かれているのが分かる。
これは蛇行しながら徐々に浮上する可能性だけでなく、同時に一歩間違えればすぐに暗い海底に再び戻ってしまう危うさも読み取れる。最終話「浮上中」では意味深なコマが挟まれる。
出典:わにとかげぎす4 古谷実
富岡の人生の分岐点には「死」というのが確実に待ち受けていた。それは冒頭で「お前は一年後に死ぬ」という不幸の手紙に悩まされていた富岡、いたずらとはいえ、もう一つの人生を示唆する伏線とも言える。しかしいく度となく窮地に追い込まれるも死なかなかった富岡、なぜなら彼女が出来たから。
テーマ
わにとかげぎすをレビューする上で重要な人物が一人いる。
転職先で出会った斉藤という男。富田と同じくずっと深夜警備員として1人孤独とともに生きてきた。しかし、富田とは違い斉藤は「孤独」に恐れてはいなかった。
出典:わにとかげぎす3 古谷実
しかし富岡との出会いによりその考え方が少しずつ変わっていく。最終的に彼は危ない方向へ変化していった。富田はそんな彼をみて「変化」ではなく「破壊」し修復不可能なところまでいくのではないかと心配していた。
年齢も境遇も近い2人を分けたのは何だったのか。
2人の決定的な差、それはそばに誰かがいたかどうかの違いでしかない。富岡も一歩間違えれば道を踏み外していた危うさは十分にあった、ラストのあのコマのように。
しかし羽田の愛によって奇跡的に救われた富岡、実は作中のテーマ(あるいはオマージュ)は作中の中で登場している。それがゲーテの「ファウスト」。もちろん古谷テイストをしっかり盛り込んで。
ファウスト
ファウストのあらすじは作中でも語られている。しかし、ファウスト博士がラストどうなったかまでは語っていない。
悪魔メフィストフェレスとの契約を交わしたファウスト博士の結末は、悪魔に魂を奪われる前に、かつての恋人・天使グレートヒェンの祈りによって天上に救済されお終わる。そこに流れるのは深い愛。
出典:わにとかげぎす3 古谷実
最終話の1つ前の章タイトルが、「キリスト教なら天使」となっていたのも見逃せない。これはファウスト博士を悪魔から救った天使グレートフェンが、「わにとがげぎす」で言えば羽田を暗示していたのではないか。
ただ、羽田は富岡の天使的な役割ですが当然人間。行く先は天国ではなく現実世界、その先に救済がまっているかわ誰にも分からない。
それがラストのコマや最終話「浮上中」の扉絵に描かれた不安や違和感につながっていったのではないか。羽田という天使が救ったのは富岡の命、しかし2人の人生はまだスタート地点にたったばかり。2人がいるのは天国でも地獄でもないのだから。
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