ここではオラフをメタファーにして、エルサ(姉)とアナ(妹)をぼくなりの解釈で考えていきます。そもそも、『アナと雪の女王』の元となった原作は、アンデルセンの童話『雪の女王』。
原作と比べてみると、全く違った作品となっています。原作に登場する主人公はカイという男の子と、ゲルダという女の子で、近所に住む幼馴染みという関係。
ただ、原作をちょっとだけ意識することで『アナと雪の女王』の参考にはなる(と思う)。
原作者はアンデルセン。正式に書くと、ハンス・クリスチャン・アンデルセン。クリスチャンとあることからも、彼の作品にはキリスト教の影響を強く受けています。
今回考察していく主テーマは、「なぜアナはクリストフではなく、姉のエルサを選んだのか?」について。オラフや原作と関連付けながら考察しました。長くて読むの相当キツいと思いますがお付き合い下さい。
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雪だるまオラフの役割
「アナはなぜエルサを選んだのか」を解説をしていく上で、オフラの存在はとても重要です。アナとエルサにとって「雪だるま」には特別な存在であることがわかります。
それは、雪だるまが二人の楽しい思い出であると同時に、悲しい思い出の象徴でもあるからです。
エルサが魔法をコントロールできていた頃の2人の関係はとても仲良しな姉妹として描かれており、アナにとっても雪だるまの思い出は、記憶をすり替えられることなく鮮明に残っていました。
これは、エルサが魔法のコントロールができなくなった後も、部屋の前で、「雪だるまを作ろう」と歌っているシーンが何度も登場することからもわかります。
そして、大事な場面にはいつもオラフがいました。そこで、まずはオラフに注目していこうと思います。
しゃべる雪だるまオラフが生まれたのは、魔法が使えるというエルサの秘密がバレてしまい、雪山に逃げてきたこのシーン。
隠してきた魔法の秘密や、お城に閉じこもっていた状態から開放され、「ありのままの自分」になれたエルサの心の躍動を歌っていますが、彼女が雪山で最初に使った魔法が雪だるまのオラフであることが分かります。
そう、雪だるまといえば、エルサとアナにとって特別な存在です。エルサは無意識に魔法で雪だるまを作ったわけですが、ここから分かるのが「アナへの思い」です。
家族愛とも言い換えてもいい。
幼い頃に両親を亡くした背景を考えても、アナ雪のテーマはここに行きつくのは当然の成り行きかなと思います。
小さい頃、自分の魔法のせいで傷つけてしまった後悔、そして、今でも同じようにアナを危険な目にあわせてしまった。彼女の心の底にある辛い思いが「オラフ」となって現れたと言えます。
エルサの愛とクリストフの愛
雪だるまのオフラはアナとエルサにとって、とても大切な存在であることが分かりました。そしてもう一つ。オラフは「真実」の愛のメタファーとしての役割も担っているのではないかと思います。
ここで真実に「」を付けたのは、クリストフとアナ、そしてエルサとアナとの愛が異なっていることを強調するため。そして、どちらが本作において真実の愛なのかを比較するためです。
『アナと雪の女王』のテーマは真実の愛です。
作品のところどころに「真実の愛(true love)」というセリフが何度も登場したことからもわかります。では、アナにとって、エルサへの愛と、クリストフへの愛との違いとは一体どこにあるのでしょうか?
まず、エルサから見ていくことにします。
エルサとアナ
エルサとアナはエルサの魔法が原因で心がすれ違っていきます。しかし、お互いの本心は昔のように仲良くしたいという思いがありました。
エルサが雪山で最初に魔法で雪だるまを作ったように、そして、アナがエルサのことを信じて連れ戻しにきたように、二人の心はつながっていた。
しかし、エルサはアナのことを思えば思うほど、魔法のコントロールが効かなくなり、いつも暴走してしまうという裏腹な結果になってしまう。
お互い心の奥底では仲良くなりたいと思いながらも、それができな2人の関係が描かれていました。
クリストフとアナ
次に、クリストフに対してアナはどんな感情をもっていたのでしょうか。
アナにとって、クリストフはエルサを探すために雇った使用人程度にすぎませんでした。そのため、後半部分まで彼に対して、いい人とは思っていても、恋愛感情までは持っていなかった。
それは、アナがハンス王子によって部屋に閉じ込められたときにオラフが言った
「クリストフはアナのことを愛している」
というセリフでやっと自分の心に気がついたくらいですから、それほど意識していなかったはずです。それに後半悪者になりましたが、ハンス王子の存在もありました。
つまり、アナとクリストフとの関係は、映画の後半部分までクリストフの一方的な愛という図式になっていて、二人の関係は「真実」の愛というよりも「恋愛」といった方が正しく、この関係性はラストまで変わりませんでした。
クリストフはいつからアナのことが好きだったのか?
ここで、ちょっと脱線しますが、クリストフはもしかしたらアナのことを昔からずっと好きだったんじゃないかと思うんです。
クリストフは小さいときに一度アナに会っている場面が冒頭のシーンでありましたが、おそらくこの時点でアナに恋をしていたのはないのでしょうか?
というのも、彼のセリフにはよく「恋愛のエキスパートの友人がいる」というセリフが出てきていました。
ということは、クリストフは幼い頃に恋愛の悩みを持っていて、その友人にいつも相談していたと考えることもできます。
クリストフは小さい時に偶然見かけたアナにずーーっと片思いをしていたとすると、なんだか彼がさらにいいキャラに思えてきます。
まぁ、妄想ですけどねw
オラフは真実の愛のメタファー
ここからいよいよ本題に入っていきます。
アナにとってエルサとクリストフのどちらを大切に思っているのかといえば、これは間違いなくエルサでしょう。
この作品ではあからさまなセリフは一切ないのですが、アナとクリストフとの明らかな身分の差は無視することはできません。
クリストフがなかなかアナに自分の気持ちを伝えられなかったのも、彼の性格だけが原因ではなく、アナが女王という立場にあったことも要因の一つだと思います。
印象的だったのは、瀕死の状態のアナを城まで運んだシーンです。クリストフはアナを城の兵士に預けますが、命の恩人であるクリストフへの対応といえば「ありがとう」というお礼の一言だけで、すぐに門が閉まります。
このシーンは、明らかな身分の差というものも表現しています。
そして、この作品の最後にはアナとクリストフは相思相愛にはなれたのですが、ラストはクリストフに新しいソリをプレゼントして、キスをして終わりです。
『美女と野獣』を手がけたスタッフがかかわっているそうですが、どうして結婚シーンでラストを迎えなかった(いってみれば中途半端なラスト)のでしょうか?
2つの愛
この疑問を解決してくれるのは、やっぱり雪だるまのオラフでした。オラフはこの作品では重要な役割をしていたことは既に説明しました。オラフには「真実の愛」のメタファーの役割も担っていたというのがぼくの解釈でした。
オラフが真実の愛のメタファーと考えたのは、オラフの溶け具合によって「真実の愛」かどうかを見分けることができるからです。
この作品の主テーマは「真実の愛」です。しかし、本作で描かれている愛の形は2つあります。
エルサとの愛とクリストフとの愛
です。
アナがハンス王子に部屋に閉じ込められて、今にも凍えて死にそうな場面を思い返してみてください。
ここでオラフが登場します。アナを暖めようと暖炉に火をいれる場面で、クリストフはアナのことが好きなことを話したことによって、アナもクリストフへの愛に気づき、吹雪の中で彼の名前を叫びながら探していきます。
オラフがアナにクリストフのことが好きであることを認識させたとき、オラフは暖炉の火で少し溶けてしまいますが、完全に溶けずに元に戻ります。これが、つまりはメタファー。
そもそも、オラフとは一体何なんでしょうか?雪だるまの精?いいえ、オラフはエルサが魔法で作った雪だるまであり、アナとエルサにとって特別な存在です。
エルサは、ずっとアナを傷つけ続けているというトラウマをもち、今もアナに危害を及ぼしてしまう可能性があるため、誰も住んでいない雪山に隠れました。
そうした心の思いが魔法に伝わり「真実の愛」のメタファーとしてオラフが誕生したと思うんです。はじめから「真実の愛」の答えがアナのすぐそばにあり、最後の最後でようやくそれに気がつくことができたわといった感じですかね。
ラストでアナの心の氷を溶かしたのがエルサだったのも、真実の愛=エルサとの愛=家族愛を描きたかったから。
だからこそ、クリストフの愛ではオラフは解けなかった。もちろんこれはアナとエルサの愛と比べてということであり、二人が仲直りした後のクリストフとの関係はまた違ってきます。
「真実」の愛ではなく、「恋愛」として描かれているため、ラストがクリストフとの結婚シーンではなく、ソリのプレゼントをしてキスするという、恋人までしかディズニーは描かなかったのだと思います。
原作「雪の女王」からの考察
最後に、原作から論の補強をしていこうと思います。なぜキリスト教をここで持ちだすのかというと、冒頭の説明を覚えていますでしょうか?
原作のアンデルセンの作品には、キリスト教の影響を受けているという特徴が指摘できるため、ここでキリスト教について触れることで、さらに理解を深めるためです。
聖書において「家庭」の位置づけを考えてみた場合、家庭とは神から与えられたものと解釈できるそうです。
「・・・それで人はその父と母を離れて、妻と結び合い、一体となるのである」
(創世記2:24)「彼らはもはや、ふたりではなく一体である。だから、神が合わせられたものを、人は離してはならない」
(マタイ19:6)
これは聖書の一文ですが、家族というのは人類存続の基本単位としてとても重要な意味があります。そのため、キリスト教にとって「結婚」や「夫婦生活」は特別な意味を持ちます。
キリスト教の立場から考えても、なぜクリストフがアナと結婚しないままラストを迎えたのかも理由が見えてきます。
結婚とは、つまりは家庭を持つことと等しいわけですから、聖書の解釈からいえば結婚も「真実の愛」と定義することが可能であるため、中途半端なラストになったのではないかと思います。
つまり、真実の愛とは「家族愛」であり、今作で描きたかったテーマでもあったというのが僕の解釈です。そして「なぜアナは最後クリストフではなくエルサを選んだのか」のぼくなりの答えとなります。