伊坂幸太郎の「アヒルと鴨のコインロッカー」。原作となる小説は2003年に発表されましたが、その後2006年に映画化。
この作品はいわゆる「叙述トリック」を採用した作品で、映像化が難しく、観客にバレずにどう伏線を撮っているのか気になるところ。
ちなみにアマゾンプライムで取り扱ってます。ここでは叙述トリックにスポットを当てながら、原作との比較も交えて考察していきやす。
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あらすじ・ストーリー
大学入学のために単身仙台に引っ越してきた19歳の椎名(濱田岳)はアパートに引っ越してきたその日、奇妙な隣人・河崎(瑛太)に出会う。彼は初対面だというのにいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的はたった一冊の広辞苑。そして彼は2年前に起こった、彼の元カノの琴美(関めぐみ)とブータン人留学生と美人ペットショップ店長・麗子(大塚寧々)にまつわる出来事を語りだす。過去の物語と現在の物語が交錯する中、すべてが明らかになった時、椎名が見たおかしくて切ない真実とは・・・
出典:アヒルと鴨のコインロッカー あらすじ|Amazon.com
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叙述トリックとは?
冒頭でこの作品は「叙述トリック」なんて言いましたが、そもそも叙述トリックとはなんなのか、ここからまずは説明していこうと思います。
叙述トリックは作者が読者へ向けて罠を張るトリックのことで、今作で言えば、河崎が実はブータン人のドルジだったというのが「叙述トリック」になります。
恐らくは終盤まで河崎=日本人だと思っていたはずです。なら、なんでそんな「読者を騙す」トリックを仕かけるのかといえば、ラストにどんでん返しができるからです。
今まで日本人の河崎だと思ってたのに、実はブータン人のドルジがなりすましていた、ってことが分かることで、読者は驚きます。
さらに、叙述トリックが明らかになることで、今までの描写が実は伏線だったなんて新しい捉え方にも気づいて、もう一度観たくなる、そんな効果もあったりします。
そんなわけで、今作のアヒルと鴨のコインロッカーも叙述トリックを成立させるために、さまざまな伏線が隠されているわけですが、次からはそんな伏線たちをいくつか紹介していきます。
明らかに分かるような伏線というよりも細かい伏線、あるいは、これは無理だろーといったキワドイ伏線についてもツッコんでます。
原作考察はコチラ【ネタバレ考察】アヒルと鴨のコインロッカー 秀逸な叙述トリックに脱帽!
文才があるというのはこういうことなんでしょうね、と勝手に納得。文章の巧みさもあり、小説として普通に楽しめた作品です。 とはい ...
ドルジの茶色い肌
まずは主人公の一人であり、河崎(松田龍平)になりすましていたドルジ(瑛太)についてですが、明らかに、明らかにおかしかったのが肌の色です。
これは映像化する上で仕方のないことなんだろうけど、かなり無理があったw
出典:©アヒルと鴨のコインロッカー製作委員会|Amazon.com
椎名と河崎の初出会いのシーン、ここで「おや?」と思ってしまう。ドルジの肌が茶色ではないのだ。原作でもドルジの肌は「濃い茶色」と表現しており、ちょっとこれはダメだろうと思ってしまうが、二年前はそうでもなかったのである。
出典:©アヒルと鴨のコインロッカー製作委員会|Amazon.com
瑛太さんはファンデーションを首までしっかり塗ってブータン人のドルジを演じていたはずなんですが、二年後にはファンデがすっかり落ちちゃってるんですよね。塗り忘れでしょうか。
そんなわけあるかぁ!!
これは明らかにダメでしょう。アンフェアですよ、椎名と出会う二年後の肌もちゃんと茶色にしておかないとダメでしょ!これがドルジの肌の色でしょ!と、残念ながら辻褄が合いませんでした。
ちなみに、椎名が大学のバス停で遭遇した外国人の女性をみても、肌の色の違いも強調するためにあの方をキャスティングしていたと思うんです。で、あれは日焼けだとかそんなんじゃなく、彼女の地肌なわけです。
「外人」と「外国人」
日本人が外国人に対する違和感とでもいいましょうか、そんなものも描かれていましたが、ドルジと椎名のセリフをよく聞くと「外人」と「外国人」でしっかり使い分けていました。
- ドルジ→外人
- 椎名をはじめとする日本人→外国人
ブータン人のドルジは「外人」について意味は知っていても、日本人が持っている独特なニュアンスまでは理解できていません。そのため、外人という言葉に抵抗を感じない。
一方、日本人は「外人」というと表現に嫌悪感を感じる人も少なくない。そのため、作中に登場する日本人のように、外人ではなく外国人と言ってたりします。
細かいですがチェックしてみてください。特にドルジの「隣の隣は外人」と椎名の「隣の隣は外国人」って部分ははっきりとわかると思います。
麗子問題
ペットショップの店長麗子さん、原作では美人ながら他人に無関心で無表情な女性というキャラでした。大塚寧々の演技、なんか棒読みじゃね?と思った方、あれは原作通りですw
大塚寧々が大根役者なわけではありません!
ドルジや琴美、河崎との出会いによってだんだんと他人に関心を持つようになっていくんですが、映画ではその部分がけっこう、といいますか、かなりカットされていてキャラが分かりにくくなっているように感じました。
出典:©アヒルと鴨のコインロッカー製作委員会|Amazon.com
ラストで麗子が笑うシーンがありますが、彼女はこのときはじめて自分の感情を表に出したという演出に気付きましたでしょうか。
少なくともぼくは、原作読んでなかったから彼女がただ単にドルジのおふざけに笑っただけと感じていたと思います。
映画なりの麗子の内面の描き方とでもいいましょか、意外と意味があったんですよね、あの笑顔の裏にはw
運転免許
「広辞苑」と「広辞林」を間違えるくらいだから、ドルジは漢字が苦手です。でも、携帯電話持ってたり、運転してたり、なんでと気になる人もいたかもしれません。
まず車ですが、これは河崎から譲り受けたものでした。問題は運転免許ですが、ドルジは無免許運転です、二年前からw
本屋襲撃の直後、河崎の症状が悪化しドルジが代わりに運転しますが、あのとき車がキュルキュルいって蛇行運転してましたよね、あれはドルジが無免許で運転しているという演出です。
アマゾンプライムで視聴してる方は、1時間30分あたりのシーンになりますかね。細かいですが気になる方はチェックしてみてください。
伏線かは疑問だがw
出典:©アヒルと鴨のコインロッカー製作委員会|Amazon.com
注目したいのは、迫真の演技をしている椎名(濱田岳 )ではなく、彼が来ているTシャツです。なにやら英単語が書かれています。
EXTENDED SCHOOL PLOGRAM
EXTENDEDは「延長する」なんて意味がありますが、学校の延長、つまり学校外の授業、放課後に行われる教育授業って意味になります。ドルジは仙台にある青葉学院大学に留学している学生。
そして河崎と出会い日本語を教えててもらっていたわけだから、河崎による一種の課外授業と言えなくもない。そんな二人の関係性を椎名のTシャツで表現していたのかもしれないw
江尻役はミスター都市伝説
出典:©アヒルと鴨のコインロッカー製作委員会|Amazon.com
気付いた方も多いと思うけど、犯人の江尻は、今ではミスター都市伝説でお馴染みの関暁夫さんでした。普通に演技うまかった。
アヒルと鴨のコインロッカーのラスト
タイトル「アヒル」と「鴨」は外国から来た鳥か日本にいる鳥かの違いでした。アヒル=日本産、鴨=外国産と区別していたことから、ブータンと日本、ドルジと河崎、ドルジと椎名などの意味合いが含まれていました。
ラストでは「神の声」を持つディランの「風に吹かれて」を流したラジカセをコインロッカーに閉じ込める、つまり、神様を閉じ込めることて、神様に見て見ぬふりをしてもらおうとした。
原作では椎名ではなくドルジがコインロッカーの件(くだり)を提案していたんですが、映画版のほうが分かりやすくなっていたように思います。
この後、ドルジが死んでしまったのか、椎名が大学を退学したのかどうかは、映画はもちろん原作の小説でも読者に委ねる形で終わっています。